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【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子

ギフト文化は、各国の歴史や習慣とともに育まれるもの。 それだけに、ギフトにまつわるマナーにもお国柄が色濃く反映されます。 プロトコール(国際交流のルール)に精通する筆者が、ギフトの習慣やタブーを国別に解説します。

【マレーシア編】民族や宗教を超えて、バスケットを贈り合う

東南アジアの中心に位置するマレーシアは、マレー系67%、中華系25%、インド系7%と、多民族国家を形成しています。宗教もイスラム教、仏教、ヒンドゥー教、キリスト教とさまざま。互いをリスペクトしながら共存しています。故に、それぞれの宗教や慣習にちなんだ祝日が1年中目白押し。国全体で定めた祭日のほか、マレーシアを構成する13州ごとに独自の祝日があります。例えば、州の首長(スルタン)や知事の誕生日が祝日に定められているようです。祝いごとの多い国ほど、人が集まり、ギフトの機会が増えるはず。どんな贈り物文化があるのか、楽しみですね。

マレーシア編 民族や宗教を超えて、バスケットを贈り合う
著者:石橋眞知子 / 編集:永岡綾 / イラスト:坂本朝香
*掲載情報は、著者の経験および独自のリサーチに基づくものです

Q. どんなときにギフトを贈る?

多民族国家はギフトイベントが目白押し!

イスラム教徒の「ハリ・ラヤ(Hari Raya)」、中華系民族の「チャイニーズニューイヤー(旧正月)」、ヒンドゥー教の「ディーパバリ(Deepavali)」、それからキリスト教の「クリスマス」。多民族国家・マレーシアでは、すべてが国の定めるお祝いイベントになっています。そして、それぞれのイベントに特色あるギフト文化が根付いています。

イスラム教徒の祝日「ハリ・ラヤ」のギフト

イスラム教徒にとって大切な祝日、ハリ・ラヤ。マレーシアでは、シンガポール同様「ハリ・ラヤ・プアサ(Hari Raya Puasa)」と呼ばれ、「ラマダン」(断食月)の月が明けたことをお祝いします。買い物に勤しんだり、日本のお盆のように帰省したりと、何かと気忙しい時期。大人たち同様、子どもたちもまた、いつもより忙しくなります。近所の家を歩き回ってはあいさつをして、お年玉をもらうのです。

そして、里帰りする人々にとって欠かせないギフトが「ハンパー(Hamper)」。ハンパーとは、イギリスに端を発した食材の詰め合わせバスケットのこと。【イギリス編】にも登場しましたね。もともとはクリスマスシーズンに感謝を込めて贈るものです。かつてイギリスの植民地だったマレーシアには、いまだにイギリススタイルが根強く残っているのでしょう。実家のみならず、親戚や友人への手土産として活用されます。もちろん、イスラム教徒は、ハラール認証を受けた食材だけが盛られたハンパーを愛用。さらに、最近では、バスケットは金や赤のカラフルなものになり、お菓子や飲料のみならず、雑貨や化粧品などを詰め込んだものも。多彩なハンパーがお目見えしています。

「チャイニーズニューイヤー」のギフト

中華系マレー人中心にお祝いするのが、チャイニーズニューイヤー(旧正月=旧暦のお正月)です。親戚一同が集まり、「紅包(ホンパオ)」と呼ばれるお年玉を、子どもはもちろん周りの大人たちにも配って1年の幸せを祈ります。この日に出会った子どもたちには漏れなくホンパオが渡されるので、ハリ・ラヤと同様、子どもにとっては最高の稼ぎどきになります。

また、親戚や知人宅を訪問する際の必需品は、マンダリンオレンジが入った赤い袋。この時期に定番の手土産です。みかんの丸い橙色は「お金」や「繁栄」を意味するとか。中国では偶数が縁起がよいとされるため、6個、または8個と、必ず偶数入っています。新年に幸運を贈り合う、というわけですね。大抵の場合、みかんと一緒にお菓子やピーナッツが入っています。さらに豪華なギフトを好む場合は、中華系の人々もバスケット入りのハンパーを贈ります。

とはいえ、その実、中華系マレー人が好むギフトは「お金」。「月餅(Moon Cake)」が贈られる中秋節を除いて、お祝いごとにはお金が付き物です。たとえば結婚祝いも、日本のご祝儀同様、現金を赤い封筒もしくはいただいた招待状の封筒に入れて渡すのだそう。ちなみに、新札で偶数の枚数、偶数の金額を贈るのが常識です。また、年末になると経営者は従業員に1ヵ月分の給料に相当するホンパオを配ります。日本のボーナスの位置付けですね。ただし、マレーシアではこのホンパオが法律的に雇用条件に組み込まれており、雇用主は絶対に支給しなければなりません。確かに、お金ほど便利なものはありません。こんなところにも、どの国でも生き抜いてきた中華思想のたくましさが表れていますね。

ヒンドゥー教の祝日「ディーパバリ」のギフト

別名「光の祭典」と呼ばれるインドのお正月。【インド編】で紹介したように、本国インドでは「ディワーリ(Diwali)」と言いますが、マレーシアではサンスクリット語のディーパバリが一般的です。10月末から11月初旬、インド暦の7番目の月はじめに行うディーパバリは、ヒンドゥー教の女神ラクシュミーを祀る日でもあり、ろうそくやイルミネーションで家の周りを飾り、夜は爆竹や花火をして盛大にお祝いをします。

ヒンドゥー教徒は日本のお正月と同じく前夜までに部屋の大掃除をし、洋服を新調して、家族みんなでディーパバリ当日を迎えます。家族や親戚で食事をしたり、寺院にお参りをしたりと、期間中はイベントが盛りだくさん。また、この時期に物を購入してお金を使うことが「縁起がよい」とされているので、街中、ディーパバリセールでごった返します。セール最中のショッピングセンターでは大規模なイルミネーションが輝き、ヒンドゥー教徒でなくても存分にお買い物を楽しめます。

2通りの「クリスマス」

マレーシアのクリスマスも12月25日で、欧米と同様、国の祝日に定められています。キリスト教徒の多い地域は、マリンリゾート地として知られるコタキナバルの位置する東マレーシア(ボルネオ島北部)。この辺りにはキリスト教を信仰する先住民族が多く暮らしています。彼らはクリスマスを厳かな家族イベントとして捉え、ツリーを飾ったり、クリスマスディナーを食したり。もちろんギフト交換もします。

一方、西マレーシアでは、クリスマスは商業イベントの意味合いが強く、クリスマスイルミネーションに彩られた街は買い物客で賑わいます。というのも、1年でいちばん大きなセール「マレーシア・イヤーエンドセール」があるから。マレーシアでは年に3回「国を挙げての」ビッグセールがあるのです。ショッピング大国と言われる所以ですね。3月に開催される「スーパーセール」、7~8月に開催される「メガセール」、そして年末年始に開催される「イヤーエンドセール」がちょうどクリスマスギフトシーズンに重なるというわけです。

Q. ギフト文化の特徴は?

異文化共存のマレーシアならではの考え方がよく表れた、こんなエピソードがあります。「子どもの誕生日会は、びっくりの連続でした」と教えてくれたのは、知人のS氏夫人。小学生のお子さん二人を連れてのマレーシア赴任から戻ってきたばかりの彼女は「マレーシアの子どもの誕生日会は、とにかく大がかり。誕生日会というより、エンターテインメントに近いです」と話します。

豪華なケータリングをはじめ、マジック、コンサート、バルーンアート、シャボン玉創作などなど、子どもたちの喜びそうなありとあらゆるイベントやショーが「誕生日ビジネス」として存在するようです。お金のある家庭は、自分の庭で、普通の家庭の子どもの場合は近くの公園やビーチでと、場所を確保して子どものために盛大なバースデーパーティーが開かれます。ときには何百人もの子どもたちか招待され、遊園地さながらの賑わいだそうです。

ところが、この頃はこうした「楽しむだけ」のパーティーに異を唱える親たちがでてきて、プールを借り切って水泳を習うとか、歌を教えてもらうとか、プロのコーチを招いてのお勉強型誕生パーティーも増えてきたとのこと。ちなみに、招待客は誕生日プレゼントを持参しないのが通例。主役から招待客へと感謝の気持ちをプレゼントするのが主流で、パーティーの帰り際にクッキーなどのお菓子が渡すのが一般的なようです。

いかにも見栄の張り合いになりそうな誕生日会ですが、「誕生会を開かなくても、秘めやかにしても、誰も何にも言わないです」とSさん。ここがマレーシア人の素晴らしいところ。「人は人」、この精神こそが異文化共存のお国柄なのでしょう。この精神はギフトにも通じるもので、周りの空気に合わせるよりも、相手への気持ちを素直にギフトにすればよいようです。

Q. ギフト選びのポイントは?

さきほどイスラム教徒のギフトとして登場したハンパーですが、マレーシアでは民族や宗教が変われど、ハンパーが大人気です。お祝いごとの時期になると、お店には色とりどりのハンパーが並び、ギフト選びには苦労しません。食材のほか、雑貨や化粧品などの変わり種がでてきているものの、バスケットに日用品をぎっしり詰めるという基本は守られています。

Q. 気をつけたいギフトのマナー&タブーは?

多民族国家だけに、それぞれの宗教における習慣や戒律には注意が必要です。イスラム教徒へのギフトでは豚やアルコールの入った食品はNG。ハラール認証を受けたものにするのが無難です。偶像崇拝は禁止されているため、人形やぬいぐるみも避けましょう(詳しくは【インドネシア編】参照)。

中華系の人には、ガラス製品はタブー。「割れやすい、壊れやすい」の意味で避けられます。ほか、時計はその発音が「死」を連想させるためNG、靴も恋人同士の贈り物には不向きです(詳しくは【中国編】参照)。

ヒンドゥー教徒であるインド系の人には牛肉関連食品をはじめ、牛革でできた製品は贈ってはいけません。ヒンドゥー教では、牛は神聖な生き物だからです(詳しくは【インド編】参照)。

最後に、フランジパニ(プルメリアもしくはインドソケイ)はマレーシアでは葬式の花として飾られるので、ギフトにはしないようにしましょう。

Q. ラッピングはどうしたらいい?

マレーシアでは、ギフトに関するラッピングが年々おしゃれになってきています。イギリスの高級志向の総合スーパー、'MARKS & SPENCER(マークス&スペンサー)'などのハイグレード路線が好まれているようです。

Q. 最近のギフトトレンドは?

年々健康志向が強くなり、デトックスウォーターが大流行しています。ハーブやフルーツをカットして水の中に入れるだけの簡単なもの。それに伴い、ヘルシーフードがギフト市場を賑わすようになっています。

もちろん他国と同様、ネットショッピングも盛ん。ネット通販を利用するユーザーは1500万人、2021年までには さらに500万人へ増加し2,000万人に達すると言われています(出典:Live Commerce)。こうした買い物の仕方の急激な変化が、今後ギフトのあり方にも影響をおよぼしそうです。

石橋眞知子

石橋眞知子Machiko Ishibashi

学習院大学卒業。在学中よりラジオパーソナリティやテレビレポーターとして活躍。その後、アメリカ・ノースウエスタン大学で日本語教師をし、イギリス・オックスフォード大学で美術史や演劇を学ぶ。以来、異文化コミュニケーションやマナーのレクチャー、企業のコンサルテーションなど幅広く活動。英会話に関する著書多数。2006年には「プロトコールの基本」(日本ホテル教育センター)の監修プロデュースを手がけた。2015年に日本クロスカルチュラルコミュニケーション協会を設立し、現在会長を務める。