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【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子

ギフト文化は、各国の歴史や習慣とともに育まれるもの。 それだけに、ギフトにまつわるマナーにもお国柄が色濃く反映されます。 プロトコール(国際交流のルール)に精通する筆者が、ギフトの習慣やタブーを国別に解説します。

【ベトナム編】せめて特別な日だけは、女性へ労いのギフトを

ベトナム(ベトナム社会主義共和国)は、常に戦いの歴史を背負ってきました。中国との長期にわたる攻防戦があったかと思えば、19世紀にはフランスの統治下に置かれ、戦後はアメリカ軍との戦争に悩まされ......。それゆえ、中国と欧米の風習が交錯した独特の文化土壌ができあがりました。宗教もその歴史を反映して、国民の約70%が仏教徒、次いでキリスト教徒、イスラム教徒、ヒンドゥー教徒、カオダイ教徒と、多岐にわたっています。

だからこそ、ベトナムは奥深い。洗練された食事、雑貨や陶器など、日本人観光客にとっても魅力満載です。そんなベトナムの人々はどんな暮らしをしているでしょう? ギフト文化を知ることで、彼らの生活ぶりが見えてくると思います。

【ベトナム】せめて特別な日だけは、女性へ労いのギフトを
著者:石橋眞知子 / 編集:永岡綾 / イラスト:坂本朝香
*掲載情報は、著者の経験および独自のリサーチに基づくものです

Q. どんなときにギフトを贈る?

大人も子どももお年玉がもらえる !?

年中行事でいちばん盛大なイベントは、旧正月(旧暦のお正月)「テト」です。古いものを送り出して新しいものを迎える「送旧迎新(トンクーニータン)」という昔からの考え方に基づいて、大晦日までに家の大掃除をし、古くて汚れたものを潔く捨てます。もちろん自分たちもお風呂に入ってしっかり体を清めてから、新年には新調した服に着替えます。そして元旦当日は、真新しい食材が並んだ食卓を囲み、家族だけでなく、日頃会えない親戚も呼んで賑々しくお祝いします。日本の新年の迎え方とかなり似ていますよね。

また日本と同様、お年玉の習慣があります。北部では「ムントゥオイ」、南部では「リーシー」と呼ばれるお年玉は、親戚の子どもたちはもちろん、友人宅や近所などテト期間中に出会った子どもたち全員に配られます。お年玉袋は中国の「紅包(ホンパオ)」と同じく、赤や金をふんだんに使った派手なデザイン。とことんおめでたい赤にこだわり、赤いピン札(旧1万ドン、新5万ドン札など)を用意します。

また、お年玉は子どもだけが対象ではありません。おじいさんやおばあさんへ健康長寿を期して贈ることもあれば、また大人同士、たとえば上司から部下、主人から使用人へも贈ります。一方、企業では一般的に年間13ヶ月の給与を支給しますが、そのうち1ヶ月分はテト前の賞与です。日本でのボーナスが、こちらではお年玉の意味合いを持っているようです。

ホーチミン在住8年の友人曰く、「お年玉袋はたくさん準備しています。仲のいい友人宅のお子さんだけでなく、いつもお世話になっているマンションのガードやメイドさん、またゴルフ場のキャディさんにもあげますよ」。日頃の感謝を気持ちに表すいいチャンスなのですね。

お正月前にもギフト習慣あり

さらに日本のお歳暮のように、テト前にお世話になった人たちにギフトを贈る習慣も存在しています。これを「クワテト」と呼ぶそう。クワテトは、親戚や学校などのプライベートな間柄だけでなく、会社から従業員の家族へも贈られます。テトが近づくとスーパーや食料品店の店先にはビニールに包まれたかごが山積み。お酒、お茶、コーヒーなどの飲料やお菓子、チョコレートなどの嗜好品、はたまた調味料、油など料理に役立つものがぎっしり詰まっています。もちろんクワテト専用のオンラインストアも大人気。年末にヨーロッパ各地で贈られる「クリスマスハンパー(Christmas Hamper)」と同じ役目なのですね。

Q. ギフト文化の特徴は?

女性のためのギフトイベントが充実

「日本の男性はレディファーストに慣れてない」と日本在住のベトナム人男性Q君。「ベトナムではデートの費用は男性持ちが徹底しているし、道を歩くときも食事をするときもすべて女性をエスコートするのが当たり前です」と話します。どうやらベトナムでは女性に対する徹底した気配りがモテる男性の条件のようです。その上、男性から女性にギフトを贈らなければならないスペシャルイベントが年に2回もあるのです。

3月8日の「国際女性デー」10月20日の「ベトナム女性の日」がそれ。「国際女性デー」とは1904年3月8日にニューヨークの女性労働者たちが女性参政権の運動を起こしたことを記念した日。1975年には国連でこの日を「女性への差別撤廃と地位向上を訴える」ため、世界的に婦人デーとすることが定められました。ところが、イタリアと同様、ここベトナムでも国連の意図とはちょっと違い、「女性に感謝する日」として男性が女性にギフトを贈る日となっています。

「女性は働かなくていい日」と位置づけられ、家庭だけでなく職場でも普段女性がこなしている作業をこの日だけは男性が甲斐甲斐しく手伝います。そして肝心のギフトは、花束をはじめ、ケーキやチョコレート、アクセサリーから、洗濯機や食器洗浄機のような電化製品やスマートフォン、パソコンなどのデジタル機器まで、とにかく選択肢が多彩。男性たちはこの機会に女心を捉えようと躍起になってギフト選びにいそしみます。街は「3月8日商戦」と銘打ったキャンペーンで盛り上がり、カップル客で大賑わい。「この日が近づくと通りに花を売る人たちが出てきてとても華やかになります。デート成功の秘訣はバラの花です」とQ君。「なるほど! だから美人の奥さまを射止めたのね~」と感心しきり。

さて、もう一つが10月20日の「ベトナム女性の日」。ベトナム建国の父、ホー・チ・ミンが1930年10月20日にベトナム反帝婦人の会(現ベトナム婦人連合会)を設立したことに端を発しています。当初は女性の地位向上に取り組む日だったようですが、昨今は3月8日と同様「女性に感謝する日」として、妻や母親、恋人に贈り物をする日となりました。3月8日ほどの盛り上がりはないものの、やはり通りの両側が花屋で埋め尽くされ、女性限定のギフト市場が繁盛します。

女性へのギフトは、せめてもの労い

女性のための日が2日もあるのは、世界的にめずらしいこと。もちろん、バレンタインデーもしっかり根づいており、日本のように女性からではなく、男性から女性へ花束やチョコレートを贈ります。さらに女性の誕生日を加えると、ベトナムでは男性が女性にギフトを贈る日が最低4回はあることになります。

「気も遣うし、お金も使う。大変ね......」と思わず呟いたら、Q君のそばにいた奥さまが言いました。「いいえ、違います。ベトナムでは男性はちっとも働かない。働いているのは私たち女性です。だからこういう労いの日が必要なのです」と。確かに「女性の社会進出度調査」(出典:MasterCard Worldwide Index「女性の社会進出度調査」2013)によるとベトナムにおける女性の「正規雇用機会」は世界ワースト2位なのに対して「労働力参加」は断トツ1位。自営業、農業、パートでがんばっているたくましい女性たちの姿が浮き彫りになりました。学生などの若い世代は別としても、大方の女性たちにとって、せめて「特別の日」だけは日頃の働きを男性諸氏に評価してほしいというのが本音のようですね。

Q. ギフト選びのポイントは?

数字にこだわるのがベトナム人の特徴です。縁起がいいと信じられているのが「9」。最高位の数字です。五行説の 5 と東西南北の 4 を足すと 9 になり、森羅万象すべてを網羅できるからだそう。さらにその発音は「永遠」を意味する「久」の発音「クー」と同じです。

ちなみにゾロ目も縁起がよく、足して9になる「333」は特に好まれます。ベトナムの「333ビール」がラッキービールとしてもてはやされるのも頷けます。

商売をしている人が好む数字は「8」。日本でも末広がりで縁起がいいとされていますが、ベトナムではちょっと違う所以です。「八」の漢越語(漢語由来のベトナム語)である「バットゥ」の発音が、「発」の漢越語「ファットゥ」に似ているからだそう。「ファットゥ」にはお金が儲かる、幸運に巡り合うという意味が含まれているそうです。

さらに「5」もラッキーナンバー。5つの要素、金・木・水・火・土を表す五行説に基づいています。

また数字の組み合わせにも慎重です。幸せを呼び込むために末広がりになるようにするか、足して9になる数字並びを好みます。たとえば、2567のように数字が末になるほど増えている電話番号、そして1215のように足してトータル9になるパスワードなどが大人気なのです。

日本人も多少数字を気にしますが、ベトナムの人々のこだわりはそれ以上。ギフトを選ぶときは、数字のモチーフや個数に気をつけたほうがよさそうですね。

Q. 気をつけたいギフトのマナー&タブーは?

好まれる数字があれば、忌み嫌われる数字もあります。最も嫌がられるのは「3」です。写真はまず3人で撮りません。真ん中にいる人が病気をしたり早死にするという言い伝えがあるからです。かつて日本もそういう迷信がありましたよね。

また、テトの時に絶対贈ってはいけないのが「時計」と「ナイフ・フォーク」です。時計は時を刻むゆえ、「人生を細かく刻む」意味を持ち、寿命が短くなるサインだからだそう。特に年配者にはご法度です。また、フォークやナイフは家庭内に対立を生み出すと信じられています。

そしてテトに限らず、ギフトとしては嫌われる傾向にあるものを上げておきましょう。

ハンカチ・マフラー・スカーフ

ベトナム語で「カン」 がハンカチやマフラー・スカーフを指しますが、「困難」を意味する「コーカーン」 と同じ発音なので忌み嫌います。

中国と同様、自分のもとから離れて行ってしまうという意味があるため恋人には贈りません。ただし一緒に靴を買いに行くのはOKです。

コップ

特に南部のほうでは嫌がられます。南部方言でコップは「リー」。別れるという意味の言葉「チアリー」を思わせるからです。

花(特定の種類とシチュエーション)

葬式の時に飾る定番の花、チューベローズは弔事以外には贈ってはいけません。また万寿菊(マリーゴールド)も葬式用なので結婚式などおめでたいときには使わないようです。そして、病院見舞いにはお花は避けたほうが無難。花があると部屋の空気が悪化すると信じている人もいるそうです。

Q. ラッピングはどうしたらいい?

ベトナムでの包装は透明のビニールやセロファンが一般的ではありますが、色とりどりのラッピングベーパーがスーパーなどで売られており、女性たちに人気を博しています。一方で、紙で包装することよりも布製のエコバッグやストローボックスに入れてそのままギフトにする習慣も広がりつつあります。

ベトナムを旅しているとき、靴を入れるギフトボックスがあまりにかわいいので、帰国後にベトナムにいる友人に箱だけいくつも送ってもらいました。靴が一足入るよう、い草で編んだ長方形の箱なのですが、フタにはたくさんの花柄刺繍が施されていてとてもおしゃれ。包装紙に包むより、このまま人にあげたくなるほど。私の部屋の整理箱として今でも重宝しています。刺繍が上手なベトナム人には、手先の器用な人が多いよう。だからこそ、ほかにはない細やかで美しいパッケージが目につくのかもしれませんね。

石橋眞知子

石橋眞知子Machiko Ishibashi

学習院大学卒業。在学中よりラジオパーソナリティやテレビレポーターとして活躍。その後、アメリカ・ノースウエスタン大学で日本語教師をし、イギリス・オックスフォード大学で美術史や演劇を学ぶ。以来、異文化コミュニケーションやマナーのレクチャー、企業のコンサルテーションなど幅広く活動。英会話に関する著書多数。2006年には「プロトコールの基本」(日本ホテル教育センター)の監修プロデュースを手がけた。2015年に日本クロスカルチュラルコミュニケーション協会を設立し、現在会長を務める。