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【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子

ギフト文化は、各国の歴史や習慣とともに育まれるもの。 それだけに、ギフトにまつわるマナーにもお国柄が色濃く反映されます。 プロトコール(国際交流のルール)に精通する筆者が、ギフトの習慣やタブーを国別に解説します。

【イギリス編】カードにしたためたメッセージが、真心を運ぶ

私は20代のときにアメリカで生活をしたのち、 学生に復帰してイギリスに滞在しました。 同じ英語圏なのにまったく違う表現がたくさんあって 戸惑う日々が続いたものです。留学したての頃、大学のクラスメート、ニールが微笑みを浮かべながら私に向かって 'I'll give you a ring tomorrow' とつぶやきました。とびきり頭がよいうえに、映画スター張りの甘いマスク。女子生徒の憧れの的であるニールが、この私に指輪をプレゼント? ええ、うそぉ!! うそでしょぉ!! 顔は火照るし、胸は高鳴るし、足も地につかない感じで家路をたどりました。さて翌日、ワクワクする私になんと彼から「用件を伝える電話」がかかってきただけでした(笑)。 'give you a ring'とは、イギリスでは「電話をする」という意味。アメリカ英語のようにcallを使って 'give you a call' と言ってくれたらこんなに舞い上がらなかったのに......。イギリス時代のギフトといえば最初に思い出す苦笑いエピソードです。

【イギリス編】カードにしたためたメッセージが、真心を運ぶ
著 : 石橋眞知子 / 編集:永岡綾 / イラスト:坂本朝香
※掲載情報は、著者の経験および独自のリサーチに基づくものです

Q. どんなときにギフトを贈る?

イギリス人の60%近くがイギリス国教会を筆頭とするキリスト教信者です。年々移民も多くなり、イスラム教など他宗教の人が入ってきてはいますが イギリス国民にとってクリスマスはやはり重要なイベント。 ほとんどの人がクリスマスを「家族のためのホリデー」と位置づけており、イヴから家族全員が集結。翌25日にはクリスマスディナーを食し、プレゼントを交換します。サンタクロースを「ファーザーサンタ」と呼び、ふわふわしたクリスマスケーキとはまったく違う、重くて甘〜いクリスマスプディングを食すこと以外は、アメリカなどのクリスマスイベントと大差はありません。   

クリスマスギフトは比較的リーズナブルで、決して高価なものは見当たりません。その年に流行った本やゲーム、はたまたチョコレート、ワイン、ゲストソープの詰め合わせなどが定番のようです。でも、贈る相手に合わせてじっくり選んでいるよう。趣味がはっきりしていれば、ギフト選びはとても簡単。例えばガーデニング好きの友人は毎年手袋や球根などのガーデニンググッズを受け取るそうで、本人もご満悦です。  

また、イギリスで生まれたクリスマスギフトに「クリスマスハンパー(Christmas Hamper)」があります。選りすぐりの食品をバスケットに詰め合わせて贈る習慣です。ロンドンの老舗、フォートナム&メイソンが300年以上前に考案したとか。クリスマスシーズンには有名デパートやスーパーのウィンドーに多彩なハンパーが並び、道行く人の心を捉えます。フォアグラ、キャビア、トリュフ、シャンパンなどの高級品から、チーズ、ハム、ジャム、オリーブ、ビスケットなどの日常必需品に至るまで、バスケットにギューギューに詰められ、今にも飛び出しそうな迫力。整然と箱に収められている日本のお歳暮などの詰め合わせとは程遠いものです。

クリスマスが過ぎると、次なる大きなギフトイベントは2月14日のバレンタインデーです。イギリスでは、日本のように「女性が男性に愛を告白する日」ではありません。恋人、夫婦、親子など「愛する人同士がお互いに愛を確認して感謝をする日」なのです。バレンタインデーが近づくと、ショッピングストリートにはハートやバラのモチーフが目立つようになり、夜になるとピンク色のイルミネーションが灯されます。当日、愛に包まれたロマンティックなムードの中、レストランやバーは仲のよいカップルでいっぱい。一人ぼっちで過ごす人には、ちょっとハードな一日となりそうですね。

さらに、イギリス特有のバレンタインデーの習わしがあります。この日に限って匿名で男性から女性に愛を打ち明けることができる、というもの。女性のもとに差出人のないカードがそっと届くのです。その実、私も一度だけいただきました。 'From your secret admirer(あなたの影のファンより)' -- 真っ赤な封筒に入ったカードを前に、「ええ、誰だろう......?」と思いつく男性を片端から思い浮かべては、ドキドキ、ワクワク。しばし心ときめかせたものの、結局差出人はわからずじまい。このバレンタイン・ラブは、謎に包まれたままどこかへ消えてしまいました。

Q. ギフト文化の特徴は?

デジタル文化に囲まれた現代でも、イギリス人は世界でいちばん「グリーティングカード好き」かもしれません。クリスマス、誕生日、結婚、ベビー誕生のようなお祝い、引越しのような生活イベントだけでなく、日常の折に触れ、心のメッセージをカードにして贈ります。「ありがとう」をThank you カードに、「いつも気にしている」をThink of you カードに託して相手に伝える。カードの存在は、イギリス人の心遣いに一役買っているのでしょう。どんなに小さな町にも必ずカードショップが存在しますし、スーパーのレジ横などにも豊富な種類のカードが陳列されています。

一方で、アメリカ流のギフト文化がイギリスに影響をおよぼしているというお話も。イギリスでも、近頃は「ギフトレシート」が使われはじめているのです。買い物をしたときに「贈り物です」と伝えると値段の入っていないレシートが同封され、受け取った人が万が一気に入らなかった場合、そのお店に持ち込んで返品・交換ができるというもの。アメリカ発の合理的なシステムです。クリスマスの時期になると、どのお店でも「ギフトレシートは必要ですか?」とお客さまに尋ねるようになりました。「せっかく時間をかけて選んだのに、返品されるのはいい気持ちがしないなあ」-- ロンドンでクリスマスギフトを選んでいたとき、イギリス在住の友人がふと洩らしました。「こんなふうにイギリスもアメリカナイズされてきたのかな」という彼の本音と裏腹に、今ではすっかり浸透しているようです。

Q. ギフト選びのポイントは?

グリーティングカードを頻繁に贈り合うイギリス人は、人との関わりを大切にする、と言えるでしょう。そんな彼らが好むギフトは、花束とチョコレート。初デートの記念に、友人宅へのお土産に、そして家で待つ奥さまにと、多岐にわたる目的で花が贈られます。ポプリ文化を生み出したイギリス人の好む花々は、やはり自然に咲く花のよう。水仙、チューリップ、野バラ、菊など、季節を先取りする花々が好まれます。ただし、赤いバラだけは愛する人に贈る花として別格扱いです。

片や、チョコレートの存在も大きい。昔からイギリスの社交文化には必要不可欠だったようです。今から40年も前に初めてロンドンにてホームステイをしたときのこと。元貴族の老夫婦の脇にはいつもチョコレートがありました。ディナーのあとには別室でチョコレートをいただき、友人宅からの招待があれば、ベルベットに包まれたアソートチョコレートを持参、オペラや音楽会には欠かさず平たいチョコレートボックスを携えて、オペラグラスを片手に頬張る、という感じです。「チョコレートは私たちの社交文化なのですよ」そう教えてくれたランドレディ(ホストマザー)。彼女の言う通り、イギリス人の集まるところ、チョコレートあり。チョコレート社交文化は永遠に不滅のようです。

こんなふうに、イギリス人が好むギフトは消耗品が多くを占めます。花束、チョコレートのほかにも、ワイン、チーズなど、あとに残らないものが好まれます。「住まいは自分たちの嗜好の場でしょう。気に入らないものを置きたくないわよね」とは、大学時代の友人、ルーシーの弁。確かに大半のイギリス人は、住居にこだわっています。部屋の壁も自分たちの好きな色に塗り替え、食器からリネンに至るまで好みのもので統一。衣食住でいちばん思い入れの強いのが、住空間なのです。イギリス人の友人によかれと思い持って行った日本製の花瓶も、「ありがとう」という言葉と同時にどこかに押しやられてしまいました。やはり、ギフトは形として残らないものが無難なのかもしれません。

Q. 気をつけたいギフトのマナー&タブーは?

イギリスには、絶対的なタブーはありません。ただし、人種や民族などバックグラウンドが異なる人もいるので、それぞれの宗教には配慮しましょう。また、日本と同じく人間関係を重んじるイギリス社会では、お礼をカードにして贈ることは、コミュニケーションにおいて重要なキーだと思います。

Q. ラッピングはどうしたらいい?

イギリス人はラッピングが苦手です。ブランドショップは別として、普通のお店やデパートでは決して素敵なラッピングは望めません。ラッピングをお願いしてお金を払ったとしても「あらら! これだったら私のほうが......」と見るも無残の体です。とはいえ、ラッピングをしないわけではありません。ラッピングペーパーを買い、すべて自分で包むのが本来のイギリススタイル。ほとんどのイギリス人は普段から包装紙のほかにリボンとシールやタグを買い揃えています。クリスマス時期になるときれいな包装グッズが出回るけれど、押しなべて高いのです。質実剛健なイギリス人は、日頃からちゃんと備えているのですね。 買っておいた包装紙にそれぞれの品物を包んで、一人一人にメッセージを書く。 'Merry Christmas' などの決まり文句のほかに、思いが伝わる一言が添えられてはじめて、プレゼントの完成です。ぐちゃぐちゃで不格好なラッピングだろうと、そのメッセージに心が温まります。

ここで、イベントごとに贈られる特別なカードと、ふとしたときに贈るときのカードの文例をいくつか挙げておきましょう。ギフトを贈るときは、ぜひ一言添えてくださいね。

【クリスマス】   
Merry Christmas and a Happy New Year
With best wishes for Merry Christmas
May all your Christmas wishes come true   

*キリスト教信者ではない人には :
Season's Greeting
Wish you have Wonderful Holidays

【バレンタインデー】  
Happy Valentine's Day
Be My Valentine
With All My Love on Valentine's Day

【誕生日】
Happy Birthday to ~!  
Best Wishes for a Very Happy Birthday
Hope you have a Great Birthday      

【日常使いのカード】
I always think of you(いつも思っています)
I am always on your side(いつも応援しています)
Do your best(頑張ってね)
Best of luck for your future(これからも幸運を祈っています)
You will always be my friend(ずっといい友達でいるよ)

Q. 最近のギフトトレンドは?

2013年にスタートした 'PATCHWORK(パッチワーク)' という「ギフトレジストリー」のウェブサイトが大きなトレンドを生んでいます。ありきたりのウェディングギフトを必要としないカップルたちに大好評。二人が叶えたい夢や本当に欲しい品物のために、友人知人たちが資金だけでなく、時間やスキルを提供する仕組みです。例えば「カリブ海のクルーズ」「オーストラリア大陸の冒険」「一晩100ポンドの最上級ホテルに宿泊」などの特別なハネムーンにはじまり、普通なら買えない高級ベッドといった品物まで、さまざまなリクエストのレジストリーがされています。

さらにこのサイトの醍醐味は、ウェディングにとどまらず、どんな機会にも使えることです。もし海外旅行に行きたいと願う友人がアプライしたら、フライトや宿泊、予防接種などのための資金援助だけでなく、たとえば飛行場へ迎えに行く手立て、旅行先での友人紹介、リュックやウォーキングシューズのレンタル、現地で使う外国語の指導などなど、いろんな方向から周囲が協力します。

おもしろいパーティを開きたい、引っ越したい、ヘアをアレンジしたい......日常生活を彩りたいと思う人が友人知人に呼び掛けて、みんながそれぞれにできることで協力する。ウェブ上のプラットフォームによって、モノだけでなく、時間やスキルをも贈り物にした画期的なシステムなのです。

石橋眞知子

石橋眞知子Machiko Ishibashi

学習院大学卒業。在学中よりラジオパーソナリティやテレビレポーターとして活躍。その後、アメリカ・ノースウエスタン大学で日本語教師をし、イギリス・オックスフォード大学で美術史や演劇を学ぶ。以来、異文化コミュニケーションやマナーのレクチャー、企業のコンサルテーションなど幅広く活動。英会話に関する著書多数。2006年には「プロトコールの基本」(日本ホテル教育センター)の監修プロデュースを手がけた。2015年に日本クロスカルチュラルコミュニケーション協会を設立し、現在会長を務める。