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【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子

ギフト文化は、各国の歴史や習慣とともに育まれるもの。 それだけに、ギフトにまつわるマナーにもお国柄が色濃く反映されます。 プロトコール(国際交流のルール)に精通する筆者が、ギフトの習慣やタブーを国別に解説します。

【スペイン編】情熱の国には、愛を贈る日がいくつもある

スペイン(正式名は「スペイン王国」)と言えば、「情熱の国」の代表格。陽気で楽天的なお国柄に見えるものの、その実、この国の歴史は宗教戦争のくり返しであり、決して明るいものではありませんでした。何度も起きた攻防戦のあと、15世紀にはイスラム教の支配からキリスト教国へと変わります。そのうねりの中で、イスラムとカトリックの融合文化が醸し出されました。しかし、そんなお国事情とは裏腹に、イベリア半島に暮らすスペイン人の多くはとにかく前向きで快活。愛を語るのが大好きな国民です。だからこそ「情熱の国」と言われるのでしょうか。さて、そんなスペインでは一体どんなギフト文化が根付いているのか、ワクワクしながら紐解いてみましょう!

【スペイン編】情熱の国には、愛を贈る日がいくつもある
著者:石橋眞知子 / 編集:永岡綾 / イラスト:坂本朝香
*掲載情報は、著者の経験および独自のリサーチに基づくものです

Q. どんなときにギフトを贈る?

地域に根ざした、愛を伝える日

2月14日のバレンタインデーは、スペイン語で「ディア・デ・サン・バレンティン(Dia de San Valentin)」。この日は、別名「ディア・デ・ロス・エナモラドス(Dia de los Enamorados)」とも呼ばれ、「恋人たちの日」を意味します。夫婦や恋人が日頃の感謝の気持ちを込めて、とっておきのレストランで食事をしたり、愛のこもったギフトを贈り合ったりするのです。ギフトの定番は、真っ赤なバラの花束。この時期、商店街にはバラの花束をはじめ、愛を伝えるギフトアイテムが勢ぞろい。香水やチョコレート、それから「カバ(Cava)」と呼ばれるスペイン産のスパークリングワインのキャンペーンがそこかしこで展開され、ギフト市場に活気を与えます。

バレンタインデーは世界中の定番ですが、スペインには、この国ならではの「恋人」や「愛」をテーマにしたギフトの日がほかにもあります。カタルーニャ地方ならではの「恋人の日」は、4月23日の「サン・ジョルディの日」です。カタルーニャ語では「ディアダ・デ・サン・ジョルディ(Diada de Sant Jordi)」。毎年この日には、女性が男性に本を贈り、そのお返しに男性から女性に真っ赤なバラの花が贈られます。そもそも「サン・ジョルディ」とはカタルーニャ州の聖人で、竜に捕らわれた王女を救い出すために果敢に戦い、見事退治しました。そのとき竜の血が地面に流れ、のちに真っ赤なバラが咲いたという伝説があります。ここからサン・ジョルディの日に赤いバラをプレゼントする意味は理解できたとしても、何ゆえ女性が男性に本を贈るようになったのでしょうか?

どうやらユネスコが1995年、この日を「世界図書と著作権デー(World Book Day)」に制定したことに加えて、ドン・キホーテの作者であるセルバンテスとあのシェークスピアの命日が重なったため、出版業界がこれを大きな商機だと考えてプロデュースしたようです。バレンタインデーにチョコレートを女性から男性へ贈るように仕掛けたのは日本の某有名菓子メーカーですが、ここまで世間に浸透させるとは、どちらも脱帽ものですね。

実際、サン・ジョルディの日が近づくと、町の広場や大通りには本の市場が立ち並び、町中本だらけ。新刊本から古本まで種々雑多な本が、行き交う人の足を止めます。人気作家のサインイベントも開かれるなど、本好きにはたまらない1 日に。相手を思って贈る本とは、どんなものでしょうか......たとえば心揺さぶる純愛小説、めくるめく官能小説、はたまた愛の哲学書から、実用的な家庭の医学やクッキングブックまで、いろいろ推測するだけで楽しくなります。女性からの意味深な本のギフトに真っ赤なバラで応えるなんて、バレンタインとは一味違った知的な香りがしますよね。

一方、バレンシア地方にも愛を贈る日があります。それは、10月9日の「聖ドニスの日」。スペイン語で「ディア・デ・ロス・エナモラドス・バレンジアノス(Dia de los Enamorados Valencianos)」、バレンシア語では「ディア・デ・ラ・モカドラ(Dia de la Mocadora)」と言います。バレンシア語の「モカドラ」は「絹で包んだ(贈りもの)」という意味。絹の取り引きが盛んだった中世の時代を彷彿とさせますね。この日はバレンシアでは祝日。1238年にアラゴン王ハイメ1世が何百年も続いたイスラム支配を打ち破り、バレンシア市内に入城を果たした記念すべき日だそうです。同時に恋人たちの守護神、聖ドニスの日でもあります。それが転じて、18世紀以降、男性から恋人や妻、母親に愛の印を贈る日となりました。

贈るのは、絹のスカーフに包まれたマジパン。どうしてマジパンなのかはバレンシア在住の友人たちにもわからないようで、尋ねても首を傾げるばかり。どうやら、この習慣は若いカップルには無縁になりつつあるよう......。とはいえ、今でもこの日が近づくと、野菜やフルーツの形をしたカラフルなマジパンとそれを包むためのスカーフがケーキ屋さんの軒先を賑わすそうです。

1月まで続く!? どこよりも長いクリスマス

カトリック教徒が多いスペインでは、もちろんクリスマスは大きなギフトイベント。しかも、この国のクリスマスシーズンはどの国よりも長くてユニークです。12月の声が聞こえると、町はイルミネーションで輝き、クリスマスツリーと「ベレン(Belén)」が至るところに飾られます。ベレンはスペイン語でキリストが生まれた地、ベツレヘムのことで、イエス・キリストの生誕シーンを再現した置物のことを指します。【イタリア編】に登場した「プレセピオ」と同じですね。

ベレンには、キリスト誕生の様子を見ようと10日後に訪れたメルキオール、カスパール、バルタサール、いわゆる東方三賢人(東方三賢者または三博士ともいう)もきちんと登場します。この三賢人がスペインではキーピープル。キリスト生誕から10日後の1月6日は「レイス・マゴス(Reyes Magos)」、すなわち「東方三賢人の日」としてクリスマスより盛大にお祝いするのです。

もちろん12月25日にクリスマスディナーを家族で食し、サンタクロースからプレゼントをもらう子どもたちもたくさんいますが、スペインでは「東方三賢人の日」のほうがもっと華やかで大掛かり。前日の1月5日の夜はどの町でも盛大なパレードが行われ、羊飼いに扮する少年たちのあとにラクダに乗って現れた三賢人が、沿道に並ぶ子どもたちに一斉にキャンディをばらまきます。実は、数日前から子どもたちは三賢人の使いとしてやってくる人にほしいものを書いた手紙を渡しています。もちろんパレードのあとに三賢人に直接渡すこともできます。おもちゃやゲーム、お菓子など、リクエストはさまざま。夜も更けて町の騒ぎも静まったころ、子どもたちは自分の靴を窓際やドアの脇にそっと置き、翌朝見に行くと......三賢人はいい子にはちゃんと望みのものを届けてくれる一方、いたずらっ子にはただの炭が置いてある、というわけ。三賢人の使いの人は、この日のためにあらかじめ学校や家庭に出向いて子どもたちの日ごろの様子を聞き、いい子かいたずらっ子かをちゃんと見分けているのです。

この習わし、もともとは本当の炭を使いましたが、今ではそんなお仕置きは跡形もなく消え、代わりにお菓子屋さんには「カルボン(Carbon)」という名前の黒くて甘いケーキが並ぶそうです。そして6日の祝日は、子どもだけでなく、夫婦や恋人、友人同士でもギフトを交換します。まさにクリスマスと同じ。ただし、この日に食すのはクリスマスケーキではなく「ロスコン・デ・ロスレジェス(Roscon de los Reyes)」。ロスコンは「大きなリング型」レジェスは「三賢人」の意味。幸運を呼ぶお菓子として愛されています。こうして、長くて楽しいスペインのクリスマスシーズンは、おいしいお菓子とギフトとともに幕を閉じます。

Q. ギフト文化の特徴は?

スペインの人々は、ギフトそのものもさることながら、ギフトを渡す行為も楽しむとか。クリスマスなどたくさんの人が集まる場では「アミーゴ・インビジブレ(Aimgo Invisible)」というプレゼント方式がよく行われます。これ、【フィリピン編】でお伝えした「マニート・マニータ(Manito Manita)」と同じなんです。参加者はあらかじめ参加するメンバーの中からプレゼントを渡す相手を一人だけくじ引きで選びます。決められた予算額で買ったプレゼントを持って、会場へ。そして各自誰かが購入したプレゼントを受け取ります。贈り手不明のギフトをみんなに見せて、参加者全員で誰が選んだかを当てるのです。場が愉快に盛り上がるようで、今では友人同士だけでなく、職場のパーティーなどでも流行っているそうです。

Q. ギフト選びのポイントは?

「情熱の国」といえども、昨今はギフト選びにも合理的な考え方が浸透してきています。ほかの欧米諸国同様、ギフトのサイズが合わなかったり、色やデザインが気に入らなかったりしたら、購入店で交換できるサービス「ティケ・レガロ(Tique Regalo)」は、スペインでも常識になりつつあります。購入時にギフトにすると伝えれば、チケットを品物と一緒に入れてくれます。もちろん値段は書いてありません。受け取った人は、このチケットをお店に持って行けば、気に入ったものと交換可能というわけです。

結婚祝いでは、このような手間すらなるべく控えるために、新郎・新婦が選んだ「リスタ・デ・ボダ(Lista de boda)」、いわゆるほしいものリストに沿ってギフト選びをするのが一般的です。さらに、昨今は招待状に書かれた新郎・新婦の口座番号に事前にご祝儀を振り込んだり、当日日本のように封筒に現金を入れて渡したりするそうです。

Q. 気をつけたいギフトのマナー&タブーは?

楽天的でおおらかなスペインにも、ギフトでは気をつけたいタブーが少々あります。まずは、お花。菊は一般的にお墓に備える花とされているので、結婚式などのお祝いごとには避けます

また、キリスト教で忌み数とされる「13」は避けたほうが無難です。13の数字が入っているようなものはもちろん、個数などにも注意しましょう。

Q. ラッピングはどうしたらいい?

他のヨーロッパ諸国同様、スペイン人もあまりラッピングにはこだわりません。お店でしてもらうのではなく、用意した包装紙で包むなど、自分でラッピングするのが基本。とはいえ、大切なのは中のギフトのほうですから、贈られた人はビリビリと破いてしまうのが通例です。

石橋眞知子

石橋眞知子Machiko Ishibashi

学習院大学卒業。在学中よりラジオパーソナリティやテレビレポーターとして活躍。その後、アメリカ・ノースウエスタン大学で日本語教師をし、イギリス・オックスフォード大学で美術史や演劇を学ぶ。以来、異文化コミュニケーションやマナーのレクチャー、企業のコンサルテーションなど幅広く活動。英会話に関する著書多数。2006年には「プロトコールの基本」(日本ホテル教育センター)の監修プロデュースを手がけた。2015年に日本クロスカルチュラルコミュニケーション協会を設立し、現在会長を務める。