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【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子

ギフト文化は、各国の歴史や習慣とともに育まれるもの。 それだけに、ギフトにまつわるマナーにもお国柄が色濃く反映されます。 プロトコール(国際交流のルール)に精通する筆者が、ギフトの習慣やタブーを国別に解説します。

【イタリア編】大切な女性へ、工夫を凝らした愛のギフトを

イタリア人と言えば、食とワインと芸術をこよなく愛し、常に陽気に人生を謳歌しているイメージですが、その実、カトリック教徒が約80%を占めているため、信仰心が厚く、家庭第一主義の人が多いよう。家族と過ごすクリスマスやイースターを筆頭に、年中宗教行事が行われています。カレンダーを開いてみれば、毎日が守護聖人の日。マルコ、ロベルト、ソフィア、マルタ......などなど守護聖人から名前をとっている人も多く、自分と同じ名前の聖人の日「オノマスティコ(Onomastico)」には、誕生日のようにお祝いをします。周りの人に感謝する気持ちを込めて、ランチやお菓子が振る舞われるとか。はて、神に感謝しながら食を楽しみ、お洒落で美意識が高く、ラテン系のおおらかさを持ち合わせて、しかも人付き合いを大切にするイタリア人。そんな彼らのギフト感覚は、どんなものでありましょう。

【イタリア編】大切な女性へ、工夫を凝らした愛のギフトを
著者:石橋眞知子 / 編集:永岡綾 / イラスト:坂本朝香
*掲載情報は、著者の経験および独自のリサーチに基づくものです

Q. どんなときにギフトを贈る?

■ 代表的なギフトイベント、ナターレ&パクスア

イタリアの代表的なギフトイベントは、クリスマスとイースター。「ナターレ(Natale)」と呼ばれるクリスマスは、12月8日(聖母マリアの無原罪の御宿りの日)にツリーと一緒にキリスト生誕の場を再現した模型「プレセピオ」を飾るところからはじまります。プレセピオは各家庭のサイドテーブルや書棚に置かれ、クリスマスを待つ子どもたちの心を大いにくすぐります。なお、キリストの人形だけは、生誕する25日になるまで飾りません。家族でいちばん幼い子どもがキリストの人形を置く役目を担い、1月6日(東方の三博士が来訪しキリストの誕生を祝した主顕節)を過ぎたら、ようやく片付けることになります。 

クリスマス当日は家族が一堂に会して大きな食卓を囲みます。 マンマの手づくり料理を前に楽しいおしゃべりに興じたあとは、いよいよハイライト。ツリーの下に積まれたギフトの交換です。イタリアでは、集まった家族や友人だけでなく、日頃からお世話になっている人みんなにクリスマスプレゼントを贈るのが習わし。日本のお歳暮の感覚ですよね。ワインやパネトーネ(イタリア式クリスマスケーキ)、はたまた本やゲーム、雑貨など、多彩な贈りものが用意されます。中でもイタリアらしいユニークなプレゼントが、真っ赤なランジェリーです。「赤い下着をつけて新年を迎えると幸運が舞い込む」という言い伝えがあるため、クリスマスシーズンにはランジェリー売場が真っ赤に染まり、大賑わいです。

一方、「パスクア(Pasqua)」と呼ばれるイースターも大切なイベントです。イエス・キリストが死後3日目に復活したことを記念する日ですが、毎年「春分の日を過ぎて最初の満月の次の日曜日」と流動的です。 パスクアの翌日の月曜も「パスクエッタ」という祝日となり、前週の木曜日からこのパスクエッタまで休む人が増え、クリスマスに次ぐ家族休暇となっているそう。

パスクアと言えば復活を表す卵がつきもの。イタリアでは「ウォーヴォ・ディ・パスクワ(Uovo di Pasqua)」と呼ばれ、シーズンが近づくと色とりどりの包装紙にくるまれた卵が店先を華やかに彩ります。包装紙の中身は、本物の卵ではなくチョコレート。薄いチョコレートの殻の中には黄身の代わりにちょっとしたギフトが隠されていて、イースター当日までのサプライズなのです。子ども向けには小さなおもちゃや文具、特に日本のキャラクターグッズが大人気。大人女子向けのものにはジュエリーやアクセサリーが入っていて、卵を割る瞬間は、子どもも大人もワクワク。大きな楽しみとなっているようです。

■ 10歳になったら、ジュエリーを

さらに、ギフトに関係するイタリアならではのしきたりとして紹介したいのが「コムニオーネ(Comunione)」(正式にはプリマ・コムニオーネ)。イタリアをはじめカトリックの国々では、子どもは3度の儀式を受けなければなりません。生まれてから1〜2歳までの間にバッテジモ(洗礼式)を、10歳頃にコムニオーネ(初聖体拝領式)を、14歳頃にクレージマ(堅信式)を行います。これらをすべて受けてはじめてカトリック教徒となるのです。

中でも「キリストとの結婚」を意味するコムニオーネは盛大です。儀式を終えると親戚や近所の大人たちが集まって披露宴のような食事会を催し、白い衣装をまとった主役の子にたくさんのギフトを贈ります。おもちゃやゲーム類など子どもが喜びそうなものが多いものの、親族からのコムニオーネのギフトには、その子の将来を思ってか貴金属が選ばれます。たとえば、両親からブレスレット、おじいちゃまからリング、おばあちゃまからペンダントなど。新品からお古まで貴重なアクセサリーが子どもの手に渡ります。南イタリアに行くほどこの習慣は顕著とのこと。ローマ在住の友人からは「14歳の男の子なのに、40個ものジュエリーを持っていたりするの。びっくりでしょう!」なんて話を聞いたことも。一つだけでもおすそ分けしてもらいたい......と思う女心です(笑)

■ 女性への感謝を込めて、ミモザを贈る日

そうそう、女性の私としては3月8日の「フェスタ・デラ・ドンナ(Festa della donna、女性の日)」の存在も忘れていけません。この日は「国際女性デー」として世界的に有名。1904年にニューヨークで女性労働者が自らの参政権を求めてデモを起こしたことがきっかけとなり、1975年には国連が「女性の平等なる社会参加と環境整備を加盟国に呼びかける日」として制定しました。

イタリアでも「女性のための日」には変わりないのですが、むしろ「女性に感謝する日」としてお祝いされています。そこに一役買っているのが、イタリア各地に春の到来を告げる花、ミモザ。3月8日が近づくと、ミモザの花束、トルタミモザ(ミモザケーキ)などのミモザグッズが商店街にあふれ、町中が黄色のミモザカラーに。この日は老若問わず、男性から女性へ、日頃の感謝を込めてミモザを贈ります。最近では女性同士でも贈り合うようで、みんなミモザに囲まれた一日を楽しみます。「女性が家事から解放される日でもあるのよ」と得意げに教えてくれたのは、イタリア人の友人。とはいえ、出張ついでに彼女の家へ遊びに行くたび、キッチンで働いているのは旦那さま。彼女はと言えば、テーブルに運ばれてきたお料理をほめているだけで、家事をしている姿は見たことがありません(笑) 女性の事情はずいぶん変わったようですが、女性に感謝するフェスタ・デラ・ドンナは不滅なのでしょうね。

最後に、誕生日のギフト事情を。誕生日を迎える人がパーティを主催し、友人たちを呼びます。呼ばれた友人たちは、ワインやスイーツを持って集まります。誕生日はこうして集まって祝うことに意義があるようで、ギフトの中身には特別思い入れがないようです。まあ、とにかく主役が周囲の人に感謝し、気持ちを分かち合いたいのですね。

Q. ギフト文化の特徴は?

「もらった馬の口はのぞくな」-- オランダで生まれ、イギリスやフランスをはじめ、イタリアでもよく使われることわざです。馬の売り買いをする博労(ばくろう)は、外見や毛並みだけでなく、口の中をのぞいて歯の減り具合で年齢を判断し、値踏みします。高価な馬を取り引きするのにプロの博労が丹念に調べるのは当然ですが、普通の人がいただいたプレゼントをどれくらいの価値なのかこまかくチェックするのは無礼千万。それがたとえつまらないものであっても、粗探しなどしないでありがたく受けとろう、という教えです。「このことわざはイタリア人の本質を突いている」とは、ミラノ在住30年の日本人の弁。どんなギフトにもまずは感謝の気持ちを忘れないこと。それがイタリア人の気質なのでしょう。

ところが、結婚祝いに関しては「何でもかんでもうれしい」というのは建前のようで、新郎新婦はあらかじめ「リスト・ディ・ノッツェ(List di Nozze)」と呼ばれる「欲しいものリスト」を作成して、友人知人に知らせます。友人たちはリストに載っているものを提携ショップで購入。もちろん披露宴当日にご祝儀(現金)や銀器などのプレゼントを手渡す人もいるようです。

また、愛にあふれたイタリアでは、常に男性が女性を気遣って何かしらプレゼントをしているように見受けられます。その最たる日が「サン・バレンティーノ(バレンタインデー)」。あくまでも恋人や夫婦が愛を確かめる日で、イタリアでは男性から女性に愛のギフトを贈ります。日本のように女性から義理チョコを周囲の男性に配ったりしたら、大変な誤解を受けてしまうゆえ要注意。

夫が妻へ頻繁にギフトを贈るのも、イタリアらしい特徴。クリスマス、結婚記念日、バレンタインデー、妻の誕生日などには、工夫を凝らした愛のプレゼントを贈ります。ミラノにジュエリーショップを経営している友人によれば、「クリスマスには決まって奥さまにジュエリーを買っていた男性のお客さまがいるの。今では奥さまに加えて3人の息子のお嫁さんにも毎年ジュエリーをプレゼントしているわ。クリスマスだけでなく、記念日に必ずジュエリーを贈る男性が多いわね」とのこと。イタリアは世界一のジュエリー生産国であり、世界一のジュエリー消費国でもあります。ギフト文化を知ると、その理由がよくわかりますね。

Q. ギフト選びのポイントは?

ギフトをいただいたら目の前で開けることが大切。アジアの国々のようにあとで開けるのはマナー違反です。ギフトの授受の喜びをその場でシェアしたいというのは、欧米諸国に共通することのようですね。

さて、男性が女性へ贈りものをすることの多いイタリア。イタリア女性たちは、どんなギフトを好むのでしょう? 人気ナンバーワンは、真っ赤なバラの花束。ジュエリー、香水、ランジェリー、チョコレートが次点を飾ります。花束は、デートやディナーをともにするガールフレンドへ、家で待っている愛妻へと、日常生活において何かにつけ男性から女性に贈られる便利なアイテム。ただし、女性から男性に花束を贈る習慣はありません。ちなみに、女性から男性へのプレゼントとしては、メンズジュエリー、文房具や雑貨などが主流のようです。

Q. 気をつけたいギフトのマナー&タブーは?

何ごとにもおおらかなイタリアにも、ギフトのタブーがあります。まずは真珠。真珠は涙の形に似ているということで、嫌う人もいるとか。さらに、体に直接つけるもの、例えば香水や石けん、ランジェリーなどは、親密な関係にある恋人や夫婦間でしか贈りません。ひと昔前の日本のように「お世話になったあの方へ、お歳暮には石けん」は通用しないのですね。

また、色にもタブーがあります。紫色はカトリックでは「憂愁」「苦悩」を表し、避ける傾向があります。ラッピングやリボンには紫を使うのを控えましょう。ただし、世界のトレンドカラーに紫が取り上げられるたびに、イタリアのファッションブランドはこぞって紫を取り入れたラインを発表しています。庶民感覚では紫はいまだに不吉な色ではありますが、 世界的なブランドファッションに関しては、何の抵抗もないようです。

Q. ラッピングはどうしたらいい?

他のヨーロッパ諸国同様、イタリアでもラッピングは自分でするのが原則。ただし、ギフトを渡した瞬間、目の前で情け容赦なくビリビリと破られてしまいます。大事なのは中身、というわけです。

Q. 最近のギフトトレンドは?

2016年、イタリアでのクリスマスプレゼント事情を調べた経済新聞『イル・ソーレ・24 オーレ』によると、「イタリア人がクリスマスプレゼントにかける費用は平均232ユーロで、前年より6%上昇。特にオンラインでプレゼントを購入する人が約40%近くになる。オンラインショッピングでは、主にCD、DVD、旅行、衣服、デジタル製品が多いが、特筆すべき点はワインや食品だけはネットではなく、生産者や販売者の顔が見える対面での購入を好む傾向にある」とのこと。他の国と同様、ギフトのやりとりにもネットが便利に使われている模様です。ただ、「食」に関しては格別のこだわりが見られるのが、食いしん坊なイタリアらしいですね。

一方、形に残るギフトではなく、「体験型ギフト」も台頭してきています。旅行券やスパなどのチケット、はたまた何を買ってもいいようにと商品券やプリペイドカードも人気が高まってきました。イタリア人にとってのギフトは、人づきあいを大切にするためのツール。時代とともにその選択肢も広がって、その人に合った使い方をしてもらいたい、またその人に体験してもらいたいと思うようになったのかもしれませんね。

石橋眞知子

石橋眞知子Machiko Ishibashi

学習院大学卒業。在学中よりラジオパーソナリティやテレビレポーターとして活躍。その後、アメリカ・ノースウエスタン大学で日本語教師をし、イギリス・オックスフォード大学で美術史や演劇を学ぶ。以来、異文化コミュニケーションやマナーのレクチャー、企業のコンサルテーションなど幅広く活動。英会話に関する著書多数。2006年には「プロトコールの基本」(日本ホテル教育センター)の監修プロデュースを手がけた。2015年に日本クロスカルチュラルコミュニケーション協会を設立し、現在会長を務める。