MARK'S ||| 株式会社マークス

当社会社情報を騙る、悪質なECサイトにご注意ください

【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子

ギフト文化は、各国の歴史や習慣とともに育まれるもの。 それだけに、ギフトにまつわるマナーにもお国柄が色濃く反映されます。 プロトコール(国際交流のルール)に精通する筆者が、ギフトの習慣やタブーを国別に解説します。

【中国編】友情を深める、真っ赤なギフト

日本の約25倍の国土面積を持ち、10倍以上の人が住む広大な中国。90%を超える漢民族のほか、50以上の少数民族が存在する多民族国家です。故に、中国の文化や習慣を簡単に一括りにすることはできません。しかしながら現在の中国の政治経済の枠組みをつくり、トレンドを動かし、また日本人にとって接する機会が多いのは圧倒的に漢民族でしょう。中国のギフト情報は、こうした背景をご理解いただきながら読んでいただければ幸いです。

【中国編】友情を深める、真っ赤なギフト
著:石橋眞知子 / 編集:永岡綾 / イラスト:坂本朝香
※掲載情報は、著者の経験および独自のリサーチに基づくものです

Q. どんなときにギフトを贈る?

昨今、ほかの国々と同様、中国でも誕生日やクリスマスには家族や友人へプレゼントを贈る習慣が定着してきました。そもそも、中国では「ギフト」のことを「礼品(リーピン)」といい、古くから贈答文化が根づいています。今なお、旧正月である「春節」(旧暦のお正月)や秋の「中秋節」(旧暦の8月15日のお祭り)では、個人間だけでなく、企業間でも礼品のやり取りが盛んです。

旧正月には、お茶やお菓子、はたまたブランド品がギフト市場を賑わせますが、主流は現金だそう。「紅包(ホンパオ)」という赤い封筒にお金を入れます。日本のお年玉に似ていますが、こちらは子どもに対してだけでなく、大人同士でも日頃の感謝の意味を込めて手渡します。

一方、中秋節の定番ギフトは「月餅」です。日本のお月見の時期が、中国では中秋節にあたります。月餅とは、その名の通り満月に似せた円形のお菓子で「家庭円満」を意味します。日本で味わう月餅は甘いお菓子ですが、元祖月餅は黒餡の中に塩漬けにしたアヒルの卵黄が入っていて、かなりしょっぱい。漆黒の空に満月が浮かぶ様子をイメージしてつくられたといいます。時が変わり、餡の進化形が広がって、今やゴマやチョコレート、アイスクリームなどのデザート系から、インスタントラーメン、ニラ、キノコ、ザリガニまで入れてしまう、ちょっと驚きのスナック系月餅まで見られます。まさに、秋の風物詩ですね。

年中買える日本の月餅と違って、中国ではこの時期にしか登場しないそう。おせち料理や雛あられと同じですね。中秋節が近づくと、デパートやスーパー、小売店などに「贈答用月餅コーナー」が設けられ、色とりどりの箱に入った多彩な月餅が並びます。月餅を贈る相手は、普段からお世話になっている人たち。たとえば役人や上司、友人たちに感謝の意を表して贈るのです。

ただし、中秋節までに届くようにするのがマナー。とはいえ、忙しい人たちにとっては、期限を守るのがむずかしいことも。そこで登場したのが「月餅チケット(月餅票)」。忙しくて店頭まで足を運ぶことができない人たちに人気を呼んでいます。贈る側はチケットを郵送するだけで済むし、受け取ったほうも期限内なら好きなときにお店に足を運んで月餅を取りに行くことができるので、どちらにとっても楽なのです。

中国では、この時期ギフトと言えばすべて月餅。そのため、どの家庭もあふれんばかりの月餅を食べ切るのに大変だそう。「うんざり......!」という愚痴のメールが上海の友人から届いたことも。中秋の名月が過ぎると、「隣近所もみんな余っているのであげられないし、捨てるには忍びないし」と、そこかしこで月餅問題に頭を悩ませているようです。

Q. ギフト文化の特徴は?

「中国人はとにかく高いものが好き。ブランド好きですね」とは、日本に留学中の中国人大学生の弁。ちょっと自嘲ぎみに話してくれました。彼らにとって、ギフトの評価基準は「自分では買えないものかどうか」だとか。つまり、高額・高価値なものは中国人にとって最高のギフト。同時に、非日常的なもの、自分の生活圏内では手に入らないものも喜ばれます。日本人からのギフトなら、求められるのは当然"made in Japan"、中でも電化製品・文具品・ファンシーグッズなどが彼らの心をくすぐるよう。若い女性たちには、日本ならではのキャラクターグッズも人気だそうです。

贈り物は、個人間だけでなく、企業間でも頻繁に行われます。以前、上海の企業を訪問したときのこと。応接室のガラスケースを覗くと、贈り主の名前が彫られた花瓶や工芸品が所狭しと並べられていました。どの企業がどんなものを贈ったか、一目瞭然。贈り主のセンスやお金のかけ方がすぐさまわかってしまいます。言わば「友好バロメータ」を陳列していたわけですね。

一方、プライベートでも贈り物は日常茶飯事。ギフトは友情の深さを表します。中国人のお宅を訪問する機会があったなら、一家にひとつではなく、奥さまや子ども、ご両親など、家族それぞれにギフトを用意するのが友情を深めるコツです。

ちなみに、中国には、贈り物を受け取る際に欧米諸国のように「ありがとう!」と率直に受け取る習慣はないそう。「こんな高価なものを受け取れません。お持ち帰りください」と一旦断ります。贈るほうはそれをそのまま鵜呑みにせず、「いえいえ、これはそんな大した品ではございません。どうぞご笑納ください」と差し戻す。これを数回繰り返して手渡すのが元来の中国流儀だそうです。よいものなのに「つまらないものです」と言いながら手渡す日本人には、この心意気、少しはわかる気がします。

さらに中国では、返礼の作法も大事。日本と同様、「いただいたらちゃんとお礼を返す」のが礼儀です。ただ、日本のように即日ではなく、いつか返す。それもいただいた価値より高く返すのが通常です。日本のような「半返し」の考えはなく、「1.5倍返し」くらいが妥当のようです。

Q. ギフト選びのポイントは?

中国ほど数字にこだわる国はありません、といっても過言ではないでしょう。まず慶事には、2で割れる数字を用います。「好事成双(よいことはセットで訪れる、を意味する四文字熟語)」が示すように、中国では2をはじめ、6、8、12、16と偶数が好かれます。ただし、4は「死」と同じスーという発音になるからNG。最も使用頻度が高いのが6と8。6はリュと言いますが、「順調」と同じ発音。66になると「大順調」の意味。「六六大順」で「万事順調」を表します。また、8はバー。「発財」の発と同じ発音となり、「富を得る」という意味になります。よって、6と8は結婚や入学、就職など、新たな門出のお祝いにぴったりの数字なのです。他方、奇数を嫌う中国人ですが、9は例外。「久」と同じ発音で「友情や愛情が永遠に続く」として好まれます。

もうひとつ、中国人が数字と並んでこだわるのが、色。赤と金が幸運色です。赤は、縁起のいい色としてあらゆる場所に登場しますが、特に旧正月になると町中赤色に塗られたような勢い。ショッピングストリートを歩けばどのウィンドーにも赤と金がほどこされ、道行く観光客の心までウキウキするから不思議です。金は、五行思想の中心にある色(黄色)として古代から高貴な色として使われてきました。先述の「紅包」など、おめでたいときには赤と金がふんだんに用いられます。そう言えば、ドアや壁に金字で「福」が逆さに書かれた赤い紙を見たことがありますでしょうか? あれは縁起を担いだ「福到来」の意味なのです。福が倒れていることで「倒来」と「到来」」をかけているのですね。

さて、吉色があればその逆もあります。白、藍色(日本の藍のような深い青色ではなく、いわゆるブルー)、黒は、一般的に不吉とされています。お見舞い金などはベージュの袋に入れますし、お葬式では白い封筒に現金を包みます。金額も、結婚祝いのご祝儀が偶数であるのに対し、お葬式では奇数になります。白といえば、中国の結婚式を垣間見てびっくりしたのがウェディングドレスの色。真っ赤なのです。日本のような白無垢や純白ドレスはご法度。西洋的な文化に憧れて白いドレスを身にまとう若いカップルが増えてはきたものの、まだまだ赤が根強いようです。ほか、嫌われるのは緑。明の時代に「不貞を働いた妻を持つ男は緑色の帽子をかぶらなければいけない」という法律があったそうで、緑の帽子は「妻を寝取られた夫」を意味します。中国人男性には、緑のウェアは決して贈らないほうがよさそうですね。

Q. 気をつけたいギフトのマナー&タブーは?

名前の発音が同じであるため、ギフトとして嫌がられるものがいくつかあります。日本人が「四」から「死」を連想するような感覚ですね。たとえば、時計(英語でClock に当たる掛け時計や置時計)は中国語で「鐘」。時計を贈ること「送鐘(ソンチョン)」と言い、終、すなわち人生最期を看取る「送終」と同じ発音となるため、贈り物としては避けられます。時計を通して死を贈るようで、確かに不吉ですね。

ほかに、傘と梨も要注意。「傘」の発音「サン」が「散」と同じため、友情が散り散りになることから友人には絶対贈りません。また、梨やスモモ類の総称の「梨」は「リ」と読み、まさしく「離」ですね。「たいていの中国人は、梨やスモモは切ったり分けたりしないでそのままかじって食べます」と留学生から聞きました。なるほど、そうやって不吉回避の工夫をしているのだと、ちょっとほほえましくなりました。

さらに、靴とハンカチもタブーです。靴は恋人同士では贈りません。新しい靴を履いてほかの異性のところに行ってしまう、つまりは二股三股をかけられてしまう危険性があるというのです。ハンカチは、別れなど悲しいときの涙をふくものだから人にはプレゼントしないそう。

若い世代の人たちの間ではこうしたタブー意識も薄らいできているようですが、それでもやっぱり、先述の「奇数」と「藍色・白・黒」は、ギフトでは避けたほうが無難のようです。

Q. ラッピングはどうしたらいい?

中国では、ラッピングはお店によって有料だったり無料だったりします。いずれにしても、気をつけなければならないのが色です。赤を中心にカラフルなラッピングのほうが好まれ、葬儀の色の白は絶対にタブーです。メッセージカードも使うそうですが、そもそも種類が少なく、日本のようなかわいいものは見当たらないとか。中国からの観光客に、日本の華やかなカードやステッカーがもてはやされるのもうなずけます。

Q. 最近のギフトトレンドは?

古来より、現金が人気No. 1ギフトである中国において、昨今トレンドなのが電子マネーのギフトです。スマートフォンなどでお金を贈れるシステム「電子紅包」が大人気。まだ賛否両論あるようですが、これからますます利用者が増えていきそうです。

石橋眞知子

石橋眞知子Machiko Ishibashi

学習院大学卒業。在学中よりラジオパーソナリティやテレビレポーターとして活躍。その後、アメリカ・ノースウエスタン大学で日本語教師をし、イギリス・オックスフォード大学で美術史や演劇を学ぶ。以来、異文化コミュニケーションやマナーのレクチャー、企業のコンサルテーションなど幅広く活動。英会話に関する著書多数。2006年には「プロトコールの基本」(日本ホテル教育センター)の監修プロデュースを手がけた。2015年に日本クロスカルチュラルコミュニケーション協会を設立し、現在会長を務める。