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【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子

ギフト文化は、各国の歴史や習慣とともに育まれるもの。 それだけに、ギフトにまつわるマナーにもお国柄が色濃く反映されます。 プロトコール(国際交流のルール)に精通する筆者が、ギフトの習慣やタブーを国別に解説します。

【ドイツ編】大人も子どもも、ギフト選びは合理的に

ヨーロッパの経済大国「ドイツ連邦共和国」は、 第2次世界大戦後、東ドイツと西ドイツに分断されていましたが、1989年にベルリンの壁が壊され、1990年には再び統一国家となりました。16世紀にカトリック教会の腐敗を訴え、宗教改革を実行したルターを生み出した国ゆえ、プロテスタントも多く存在します。人口の60%近くがキリスト教徒。カトリックとプロテスタントは半分ずつの割合です。「真面目で、責任感が強く、ルールをつくりたがる......そして自己中心的」などと称されるドイツ人気質ですが、ギフトに対する思考はどんなものでしょうか?

ドイツ編 大人も子どもも、ギフト選びは合理的に
著者:石橋眞知子 / 編集:永岡綾 / イラスト:坂本朝香
*掲載情報は、著者の経験および独自のリサーチに基づくものです

Q. どんなときにギフトを贈る?

誕生日のギフト選びは合理的に

ドイツ人は友人や同僚の誕生日を非常に大切にし、カードを贈ったり、ランチを食したり、必ずお祝いします。中でも20、21、22、25歳、そのあとは30、40など10歳ごと、そして44や66などゾロ目の年齢となる年には盛大に祝います。主催者は誕生日を迎える本人で、食事や飲み物を用意して、友人や知人をもてなします。

呼ばれた人たちはささやかなギフトを用意します。そのギフトには領収書が添えられていて、本人が気に入らなければ領収書を店に持参して交換できるようになっています。「気に入らなかったら交換するのは当然。無駄なものはほしくないもの」と教えてくれたのは、ハンブルグ出身のドイツ人女性。

その合理的な精神は、子どもの誕生日にこんな仕組みを生み出しました。子どたちにとって、毎年の誕生日は大きなイベントです。たいてい友だちを呼んでパーティーを開くのですが、その際、「ゲブルスタークキステ(Geburtstagskiste)」と呼ばれる「誕生日ボックス」システムを使ってプレゼント選びをします。

デパートの子ども用品売場やトイザらスのような玩具店には、このゲブルスタークキステが用意されています。誕生日を迎える子どもは、受け付け場所で自分の名前の付いた空のボックスを手に入れ、売場を丹念に歩き回り、人気のゲームやキャラクター人形など、ほしいものをパーティーの招待人数分だけ入れていきます。もちろん親も一緒なので、あらかじめ予算を決めておいて、みんなが買える範囲のものを選ぶわけです。その後、お店から招待客に「プレゼント商品が確定しました」と連絡が届きます。お店に赴いた招待客はそれぞれボックスから一つずつ贈りたいものを決めて、パーティーに持参。すべてお気に入りのギフトに囲まれた子どもにとって、極上の誕生日となること請け合いですね。

ウェディングギフト選びは「結婚式テーブル」で

ちなみに、結婚祝い用にも、あらかじめ新郎新婦がほしいものを決めるシステムがあります。「リスト・ド・マリアージュ」や「ウェディングレジストリ」として欧米諸国で一般化されていますが、ドイツでは「ホッホツァイトティッシュ(Hochzeitstisch =結婚式テーブル)と呼ばれ、長年親しまれています。

ギフトを贈りたい友人たちは、ふたりが指定したウェディングギフト専門店へ。店内には純白やピンクのクロスに彩られた円テーブルがいくつも並んでいます。ふたりの名前が記されたテーブルに通されると、その上にはカップルの好む品物がずらり。価格表とともに置いてあります。予算に応じてその中から贈り物を選び、お店にお金を支払って完了というわけです。昨今は、実店舗でなく、インターネットでのホッホツァイトティッシュが人気を呼んでいるようです。

最大のギフトイベント、クリスマス

キリスト教徒が約60%を占めるドイツでは、クリスマスは大切なギフトイベント。11月末から各地でクリスマスマーケットが開かれ、準備に大忙し。マーケットには、キャンドルやオーナメントをはじめ、クリスマスギフト用の雑貨が所狭しと並びます。その実、13世紀からはじまったクリスマスマーケットはドイツに2200もあり、この間、延べ2.7億もの人が国内外から訪れるといいます(出典:DIAMOND online)。一方、ほかのヨーロッパ諸国と同様、「アドベントカレンダー」を用いてクリスマスへのカウントダウンもスタートします。12月1日以降、毎日一つずつ日付の窓を開けると、小さなプレゼントが顔を出します。プレゼントはチョコレートやお菓子類が多数派ですが、昨今、ビールや化粧品が出てくるものもあり、大人も楽しめるように工夫されているようです。

もちろん、子どもたちにとっても1年でいちばん心踊る時期です。まずは12月6日、「ザンクトニコラウスタグ(St.Nikolaustag=聖ニコラスの日)」がやってきます。これは、慈悲深い聖人、ニコラスがクネヒトループレヒト(Knecht Ruprecht)を連れて子どもたちの様子を見に来る日。ニコラスは金の書物を持参しますが、そこには子どもたちの1年の行いがすべて記されています。素直でいい子にはニコラスからご褒美としてお菓子が配られ、悪い子にはクネヒトループレヒトから炭や棒、石など子どもたちを懲らしめるものが渡されます。というわけで、クネヒトループレヒは別名「黒いサンタクロース」とも呼ばれているとか。

子どもたちはこの日を待ち焦がれ、いい子になろうと必死。聖ニコラスの日の前夜になると「いい子」に見せようと自分たちの靴をピカピカに磨いて玄関に置きます。すると、翌朝、「いい子」と認められた子の靴の中には、お菓子だけでなく、ほしかった玩具などが入っているのです。靴の中を見た瞬間、きっと子どもたちの顔から至福の微笑があふれることでしょう。

ところで、ドイツでは各家にプレゼントを運ぶのはサンタクロースではありません。「クリストキント(Christus Kind)」と「ヴァイナハツマ(Weihnachtsmann)」です。クリストキントと は、「幼子キリスト」という意味。かわいい姿をした天使のような存在で、「クリストキントリ(Christkindli)」とも呼ばれます。一方、ヴァイナハツマは赤い服を着た「クリスマス男」。主にカトリック信者の多い南部ではクリストキントがプレゼント運びをしますが、プロテスタント信者がメインの北部ではヴァイナハツマが活躍します。子どもたちはあらかじめクリストキントやヴァイナハツマンにほしいものを記した手紙(ウィッシュリスト)をしたため、ツリーに吊るします。その願いが叶うのは、24日のクリスマスイブ。ツリーの下にはなんと自分のほしいものが! 日頃から願っていたものが手に入る、格別の日となります。

Q. ギフト文化の特徴は?

ドイツでは「相手が本当に必要としているか」「心から喜んでくれるか」で贈り物を選びます。日本のように会社で旅先のお土産を配ったり、画一的に記念品を贈ったりすることは、好まれない模様。また、質実剛健の気風があるドイツ人は、やたらとものを買いません。部屋のインテリアも、代々伝わる家具を置き、こだわりのある小物を飾ります。そんな気質から、ギフトは消耗品や食品が主流。チョコレート、ワイン、花がドイツ人の好きな三大贈り物だそうです。

Q. ギフト選びのポイントは?

先述の通り、ドイツ人が好むギフトは、チョコレートや、果物、ワイン、ビールそして花束。つまり、形として残らないものなのです。本当にほしいものは、あらかじめリストを通して贈る側へ伝えておくし、万一いらないものをもらった場合はお店に行って交換する。直球勝負のやりとりで、極めて合理的です。彼らのこの合理性にうまく寄り添うことが、ギフト選びのコツといえるかもしれません。

Q. 気をつけたいギフトのマナー&タブーは?

さきほども触れましたが、たとえば「日本からのお土産」と称して飾り物や置物など贈るのはタブー。気持ちはうれしくても、趣味に合わないものの処理に頭を悩ますことになるからです。この徹底ぶりがドイツらしさなのでしょうね。

ところで、三大贈り物の一つである「花」ですが、チューリップはご法度です。ドイツでは無情の花とされ、「絶交」を意味するようです。

Q. ラッピングはどうしたらいい?

ラッピングに関してはほかのヨーロッパ諸国と同様、有料のラッピングサービスもありますが、お店の片隅にラッピングコーナーがあり、必要とあれば自分で包んで持ち帰るようになっています。

Q. 最近のギフトトレンドは?

「本当に相手に喜んでもらえるギフト」を考えるには、頭を捻る時間が必要。仕事に追われる多忙な人の間で、最近は"The Christmas List"や"Gift Planner - Christmas List Organizer"といったギフトアプリが活用されています。記念日や友人の誕生日といったギフトイベント、ギフトのアイデアや履歴、購入したお店や価格などの記録を管理できるそうです。

石橋眞知子

石橋眞知子Machiko Ishibashi

学習院大学卒業。在学中よりラジオパーソナリティやテレビレポーターとして活躍。その後、アメリカ・ノースウエスタン大学で日本語教師をし、イギリス・オックスフォード大学で美術史や演劇を学ぶ。以来、異文化コミュニケーションやマナーのレクチャー、企業のコンサルテーションなど幅広く活動。英会話に関する著書多数。2006年には「プロトコールの基本」(日本ホテル教育センター)の監修プロデュースを手がけた。2015年に日本クロスカルチュラルコミュニケーション協会を設立し、現在会長を務める。