ギフト選びのNG週から相手の好みをリサーチするコツまで、グローバルに活躍するワーキングパーソンに役立つ情報満載。 外資系の社長を歴任し、海外暮らしを経験してきた筆者が、世界のギフトにまつわるエピソードをご紹介します。
Vol.9 心温まる、忘れられないギフト【欧米編】
私はパリで暮らした経験があり、ふとしたときに思い出にふけることもあります。素敵な思い出のエピソードには、決まって特別なギフトが一緒でした。そこで、今回は趣向を変えて、私がこれまでビジネスパートナーからいただいたギフトの中で、特に忘れられないものについてつづってみたいと思います。
パリの小さな思い出
私は、1995年から2000年までの間、仕事の都合で家族とともにパリで暮らしていました。日本へ戻ることが決まり、いよいよパリを離れる一週間前の週末、友人たちがささやかなフェアウエルパーティーを催してくれました。
仕事仲間だったジャック(彼はゆうに100kgは超える巨漢なのですが、とても繊細な心の持ち主です)は「いつでも帰ってこいよ!」と言いながら、立派なパリの写真集を手渡してくれました。美しい街並みが続くページをめくり、最終ページに目をやると、彼のサインと『パリでの小さな思い出と、大きな友情とともに!』というメッセージが書かれていました。
サインとメッセージ。たったそれだけで、本屋さんで売られている商品が、心のこもった贈り物へと変わるのだなあ、と感激したものです。この写真集を取り出すたびに、ジャックのふくよかなが笑顔がよみがえります。
ちょっと変わったサプライズディナー
ドイツの調理器具メーカーであるWMF(ヴェーエムエフ)社へ出張したときのこと。「今夜は、高橋さんの今までの功労に報いるための、心ばかりのお礼のディナーをご用意しました」とランチタイムに本部長のルッツ氏に言われたので、楽しみにしていました。
すると夕方の5時ごろに彼から連絡があり、「あ、先ほど言い忘れたんですがね、今夜はとてもカジュアルなディナーなので、ぜひジーンズにシャツでいらしてください。ジャケットは不要ですよ」とのこと。さて、約束の夕方7時にレストランに着くと、「えっ!?」......お客さんたちは、一様にきちっとした身なりの紳士淑女ばかり。私は受付の紳士に促され、地下の部屋へと案内されました。
「ああ、よくいらっしゃいました」とWMFの幹部社員三人衆。「あれ、ジーンズにシャツでいいっていうから、僕はこんな格好で来てしまいましたよ。でも、みなさんはスーツ? Why?」と尋ねると、「そりゃあそうです、だって今夜は私たちがゲスト、高橋さんはコック。さあ、私たちはお腹が空いてきたので、早く料理をはじめてください。このエプロンを着けてね!」とウインクするではありませんか。
こりゃあ話が全然違うなあ。「ちょっと待ってください。僕は料理はからっきしダメなんです」と言うと、「ははあ、そう来るだろうと思っていたので強力な助っ人を呼んであります。さあ、ウオルター氏どうぞ。彼はウイーンのレストランでシェフを務めているんですよ!」
しぶしぶエプロンを着け、観念して包丁を握ったところ、ニヤニヤしているウオルター氏がほとんど下ごしらえのできた料理を次々に冷蔵庫から出してきて、「実は、ほとんど僕がつくってあるので、高橋さんは温めてお皿に綺麗に盛り付ければいいんですよ」と。彼らなりの洒落のきいたサプライズ演出だったというわけです。一杯喰わされ、けれどその分楽しく、最後には心温まるディナーでした。
1本のバゲット
パイオニア・フランスでマーケティング部長をしていたフレデリックが、パリで新しいアパートに引っ越した、というのでホームウォーミングパーティーに妻と招待されたときのことです。30人ほどのパーティーはワイワイガヤガヤ。さぞかしご近所迷惑だっただろうなあ、とあとから反省しきりでしたが、当日はお酒もまわって楽しいひとときでした。
時計の針が午前1時を回るころ、「さて、僕たちもそろそろ失礼するよ。今夜は本当に楽しいパーティーだった。ありがとうフレデリック」と別れの挨拶をすると、「そうか、じゃあこれを持って帰ってくれ」と手渡されたのは、1本のバゲット(細長いフランスパン)とチーズ。「だって、明日はきっと寝坊をして、パン屋さんに行くのが億劫になるだろう!」
こんなにシンプルで、お手頃で、相手が喜ぶギフトってあるんだなあと感心しながら、もうとっくにライティングの消えたエッフェル塔を遠くに眺めつつ、自分たちのアパートに帰ったのでした。
トロントでの熟睡
1990年代前半、私は多忙を極めており、毎月パリとニューヨークに出張していました。ある日、たまたまニューヨークで日曜日をオフにできる機会があり、久しぶりにカナダのトロントに住んでいる友人のルイの家に遊びに行くことにしました。土曜の夕方トロントに到着。彼の家でファミリーディナーをごちそうになり、ウイスキーを飲みながら昔話に花が咲き、夜の11時ごろベッドに入りました。
「おい、Kats(カツ、私のニックネームです)、そろそろ起きて、朝食食べて、空港に向かう時間だぞ!」とルイが寝室に入ってくると、奥さんと子どもたちがルイの後ろでクスクス笑っているではありませんか。「え、いや、僕のニューヨークへのフライトは午後6時だから、まだまだゆっくりなんだよ」と言うと、ルイが笑いながら「知っているさ。だから起こしにきたんだ、今は午後2時だからね」
「えっ!?」腕時計に目をやると、た、確かに。「僕たちは、遠方から来てくれたKatsに何も用意していなかったけど、どうやら静かな"休息"をプレゼントできたようだね!」とルイ。当時過労気味だった私への、何よりのギフトになりました。
もらって、贈って、うれしいギフト
結局ギフトって、受け取るほうも贈るほうも幸せになるのがベストなんですね。コツは、贈る相手の気持ちや状況を想って、ちょっとだけ手間をかける、ということかもしれません。それは、家族や友人の間でのギフトも、ビジネスパートナーとのギフトでも同じ。ほんの少しの心遣いが、贈る"愛"になりますから!
高橋克典Katsunori Takahashi
1957年生まれ。シャルル・ジョルダン、カッシーナイクスシー、WMFジャパン コンシューマーグッズなど、海外企業の子会社や日本法人の社長を歴任。ヨーロッパを中心に世界各国とのビジネスを経験し、またフランス在住経験を持つ。現在は、企業のコンサルティングをしながら、講演や執筆活動にも力を入れている。著書に『海外VIP1000人を感動させた外資系企業社長の「おもてなし」術』『小さな会社のはじめてのブランドの教科書』(ダイヤモンド社)など。