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【世界のギフトマナー】海外ビジネスに役立つ!ギフトエピソード by高橋克典【世界のギフトマナー】海外ビジネスに役立つ!ギフトエピソード by高橋克典

ギフト選びのNG週から相手の好みをリサーチするコツまで、グローバルに活躍するワーキングパーソンに役立つ情報満載。 外資系の社長を歴任し、海外暮らしを経験してきた筆者が、世界のギフトにまつわるエピソードをご紹介します。

Vol.11 心温まる、忘れられないギフト【アジア編】

私が外資系企業のアジア太平洋地域の総責任者を務めていた頃は、お隣の韓国からはじまって、台湾、中国、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアそしてインドまで、半年に一度は訪問していました。こうしたアジアの国々での心温まる経験を振り返ると、やはりそこには素敵なギフトがありました。今回は、思い出深いギフト【アジア編】をお届けします。

Vol.11 心温まる、忘れられないギフト【アジア編】
著:高橋克典 / 編集 : 永岡綾 / イラスト: 菅濱奈里
*掲載情報は、著者の経験および独自のリサーチに基づくものです

インドにて、ヤギのおもてなし

デリー郊外に本拠を置く製造企業と中期的な契約を締結したときのことを、今でも鮮明に覚えています。契約書に調印し終わると、インド側の代表者が「高橋さん、今夕は我々から高橋さんをはじめ、日本のみなさまに特別な贈り物があります。どうか受け取ってください」とのお話があり、「それは光栄です。謹んで頂戴いたします。楽しみにしています」と答えました。

夕方、約束の時間に指定されたレストランに赴くと、玄関にはかわいらしいヤギが一頭縄につながれていました。「へえ、かわいらしいですね! こちらで飼っているのですか?」と尋ねると、「いえいえ、さきほど到着したばかりです。これが高橋さんにこれから差し上げる贈り物ですよ」との答え。

「......!?」

「さあ、これから、このヤギを潰して、フレッシュなミートでお料理をつくりますからね! 楽しみにしていてください。当地でも指折りの解体師が高橋さんの目の前で解体しますよ」

予想外の展開に「はあ、ええ、そうなんですね。今ですか? ありがとうございます......」と、シドロモドロ。あとでよく理解したのですが、インドでは生きたヤギを贈るのは最高のもてなしなんだそうです。ヒンズー教徒は聖なる動物である牛は絶対に食しませんし、インドの人口の1割以上はイスラム教徒のため豚もNG。普段、肉と言えば、鶏肉になります(完全に菜食主義の人も少なくありませんが)。そんなインドにおいては、ヤギ肉は洗練されていておいしく、宗教上のタブーも少なく、高級品なのです。

もちろん食肉店やスーパーでもヤギ肉は買えますが、鮮度がわからない。そこで大切な客人には生きたヤギをその場で捌いて供するのがいちばん、というわけです。はじめは少しびっくりしましたが、彼らの心尽くしがわかり、感激したものです。もちろん味は抜群でした。

実は、まったく同じギフトを沖縄県那覇市でいただいた経験があります。ヨーロッパの家具メーカーの日本法人代表を務めていた際、那覇市に路面店をオープンしたのですが、地元の建設業者さんがお祝いにヤギを一頭プレゼントしてくれたのです。そのヤギは、お店の入り口で捌かれて、その夜の宴会に供されました。宗教も文化もまったく異なる沖縄にも同じような考え方があることに、妙に感心したものです。昨今、パーティやイベントではマグロの解体ショーが人気だそうですが、フレッシュな素材で客人をもてなしたい、というホスト側の心遣いは同じですね。

マレーシアの"いけす"レストラン

マレーシアを訪れたときのこと。「いったいいくつ"いけす"があるんだろう!?」と思うほど、広大な空間を取り囲むように無数の"いけす"が設えてあるレストランに招かれました。覗き込むと、さまざまの種類のエビ、カニ、魚が、まるで水族館の様相で元気に泳いでいます。

紹興酒でエビを酔っぱらわせて茹でたり、チリソースで辛く和えたり、魚を蒸したり、貝を炒めたり、それこそ材料と料理の種類は無数です。しかし何と言っても、その喧騒と、人々の食べるパワーに圧倒されました。小さな子どもからお年寄りまで、老若男女が丸いテーブルを囲んで海鮮にかじりつく姿は壮観です。

ビジネスでやってきた私を、洒落たモダンなレストランではなく、山の中腹にある地元の人が集う大食堂に招いてくれたマレーシア企業のボスに感謝した一夜でした。現地の人に案内されなければ決してできないような体験こそ、素晴らしいギフトだと実感しました。

ところで、その晩ビールをガブガブ飲んでいたのは私一人だったので不思議に思ったものです。しかし、考えてみれば、ムスリム(イスラム教徒)の多いマレーシアでは当然のことだったのです。また、車でしか来ることができない場所にあるレストランだったので、宗教上の理由とはいえ、お酒抜きで夕食をとることが交通安全にもつながっているわけで、とても健全な気がしました。

台湾にて、お茶時間の贈り物

お茶文化は、インド、セイロン、中国、イギリス、そしてもちろん日本と、世界各地にありますが、台湾で供されるお茶は格別だと思います。台北での商談が午後3時頃に終わり、「もしプライベートでご予定がなければ、お茶をお付き合いいただけませんか?」と取引先に誘われたときは、近所の喫茶店にご一緒するものと思い「喜んで!」と二つ返事をしました。

ところが、案内されたのは市内から車で40分ほど走ったところにある小山「猫空(マオコン)」だったのです。ロープウェーに乗って山頂まで登ると、一面の茶畑が広がり、眼下に台北市内が臨めます。聞くとろころによれば、ここには60軒以上の茶芸館があるとか。そのひとつで、ゆっくりとお茶の時間を楽しみました。粋な計らいに、身も心もリラックスし、仕事の疲れがすっかり吹き飛んでしまいました。

猫空の茶芸館ではさまざまな工夫茶(ゴンフーチャー)をいただくことができます。工夫茶とは、小さな急須「茶壺」やお茶の香りを楽しむための「聞香杯」といった専用の中国茶器を使って、時間をかけて丁寧にお茶を淹れること。普段中国茶をあまり飲まない人も、その香りと味に魅了されること請け合いです。特に「鉄観音」は絶品でした! 以前、上海市内のお茶屋さんで茶葉を求めたところ、高級銘柄は軒並み台湾製だったことを覚えています。ちなみに猫空は、市内から地下鉄でも気軽に行くことができますよ。

ところ変われば......の驚きをギフトに

世界は狭くなったように感じます。情報だけならインターネットで瞬時に入手することができますし、物理的にもジェット旅客機に乗りさえすれば地球の裏側まで24時間で到着することが可能です。しかし、世界にはまだまだ異なる文化がモザイクのように厳然と残っています。そして、そこには日本とは一味も二味も違う贈り物の流儀があります。国を越えてやりとりするギフトの醍醐味は、この流儀を交わし合い、新鮮な驚きを味わい、お互いの文化に触れることにあるのかもしれません。

高橋克典

高橋克典Katsunori Takahashi

1957年生まれ。シャルル・ジョルダン、カッシーナイクスシー、WMFジャパン コンシューマーグッズなど、海外企業の子会社や日本法人の社長を歴任。ヨーロッパを中心に世界各国とのビジネスを経験し、またフランス在住経験を持つ。現在は、企業のコンサルティングをしながら、講演や執筆活動にも力を入れている。著書に『海外VIP1000人を感動させた外資系企業社長の「おもてなし」術』『小さな会社のはじめてのブランドの教科書』(ダイヤモンド社)など。