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【世界のギフトマナー】海外ビジネスに役立つ!ギフトエピソード by高橋克典【世界のギフトマナー】海外ビジネスに役立つ!ギフトエピソード by高橋克典

ギフト選びのNG週から相手の好みをリサーチするコツまで、グローバルに活躍するワーキングパーソンに役立つ情報満載。 外資系の社長を歴任し、海外暮らしを経験してきた筆者が、世界のギフトにまつわるエピソードをご紹介します。

Vol.10 ギフトを通して日本文化を伝える

みなさん、「エノキアン協会」ってお聞きになったことがありますか? フランスで発足した経済団体で、創業200年以上、一貫して家族経営を続けてきて、現在も健在な経営を維持している会社のみが会員資格を得られるというもの。老舗同士が協力し、伝統をつないでゆくことを目指しています。各国の会社が名を連ねており、イタリア14社、フランス12社に次いで、日本は堂々3位の8社が登録されています。さらに、会員企業の中で最も歴史が古いのは石川県の温泉旅館です。これはほんの一例で、日本の歴史や文化は、私たちが思っている以上に世界から高く評価されています。海外の方へのギフトでは、誇りを持って、日本文化が脈々と流れる匠の技を贈りましょう!

Vol.10 ギフトを通して日本文化を伝える
著:高橋克典 / 編集 : 永岡綾 / イラスト: 菅濱奈里
*掲載情報は、著者の経験および独自のリサーチに基づくものです

伝統工芸品選びのポイントは"使いやすさ"

日本文化を贈るといっても、構えることはありません。もちろん高価な品もたくさんありますが、本来伝統工芸品とは美術品のように飾っておくものではなく、毎日の生活の中で使ってこそ価値あるものがほとんどです。

茶碗、箸、花瓶、盆、織物、玩具、人形、扇子、筆など、数え上げたらきりがありませんね。また素材も木、鉄、ガラス、紙、布、石など多種多様です。現在でも、日本には1,000種類以上の伝統工芸品があるそうですよ。

せっかく大切な方に差し上げるのですから、たとえ異なる文化においても、使いやすい品を選ぶことが相手に喜んでもらう第一歩です。

使い方を伝えることも、ギフトの一部

では、毎日の生活に役立つものって何でしょう? 私がまずおすすめするのはキッチンツールです。西洋包丁は押しながら食材を切り分けますが、和包丁は引き切りです。ですから刺身は「切る」という忌言葉を避け、「引く」と表現しますよね。包丁の思想がまったく違うのです。煎じ詰めれば、西洋人は肉を切るために包丁を使い、日本人は魚を切るために包丁を使うという食文化の違いが見えてきます。

だとすると「西洋人に和包丁を差し上げるのはNGだ!」ということになってしまいます。でも、ちょっと待ってください。それは一昔前までのこと。今、パリでは大和食ブームです。パリの和包丁屋さんでは、一本2万円以上もするものがどんどん売れていると聞きます。それは家庭で本格的に日本食を楽しみたい、というパリジャンやパリジェンヌが増えたから。日本のキッチンツールは大人気なのです。

当初は西洋風にアレンジして使われていた日本の道具が、徐々に本来の使われ方に変わっていくことはめずらしくありません。たとえば、鉄瓶もそう。以前は鉄瓶を使って紅茶を淹れる人が多く、スタイルとして使われる傾向にありました。しかし、今ではすっかり本格的に煎茶を嗜む人が増えたのです。そうなると、ステンレスの西洋ケトルではなく、鉄器でお湯を沸かしたくなるのが人情というものです。

和食が好き、お茶が好きなど、相手の趣味嗜好があらかじめわかっていたら、オーセンティックな製品を差し上げ、ついでにその使い方も伝授してあげましょう。贈られるほうの感激もひとしおではないでしょうか。

用途をアレンジして、ウィットに富んだ提案を

日本の伝統的な日用品が、ちょっとしたアイデアで海外の方の生活スタイルにピタリとハマる場合もあります。大陸欧州では、朝、大きなカップでカフェオレを飲む習慣があります。フランスでその姿を初めて見たとき、「あっ、これは小どんぶりだ!」と思いました。少なくともコーヒーカップのように、小さくて耳のような形の取手が着いたアレではなかったのです。つまり、薄い地で丸みを帯びている大きな陶器の碗だったら、カフェオレを飲むのにうってつけなのです。

また西洋の女性の髪は自然なウェーブかかっていることが少なくありません。ある女性が日本の塗り箸を髪の毛を束ねるのに上手に使っているのを見たときは、「こんな使い方もあるのか」といたく感心したものです。

和柄の小どんぶりを「カフェオレボウルとしてどうぞ」と差し上げたり、美しい塗り箸を「新しいタイプのヘアスティックだよ」と提案したり。海外の方の自由な発想は、こちらにとってはギフト選びのよいヒントになりそうです。

日本文化の新風を贈る

Vol.6でご紹介したように、伝統工芸品を現代の作家がデザインした製品、いわゆる「ジャパンデザイン」は、海外の方に差し上げるのにとても魅力的な選択肢だと思います。

日常的に使いやすいものとしては、文房具にもジャパンデザインと呼べるものが多々あります。ユニークなデザインのぽち袋は、軽くて、手ごろで、素敵なプレゼントに。私たちが慶弔の際に使う袱紗も、モダンなカラーやデザインのものがあります。特別な方に贈るのでしたら、少し張り込んで、1枚の銅板を槌で打って鍋ややかんなどをつくる伝統工芸、鎚起銅器の万年筆は一生モノのギフトになります。

一方、現代生活で使われる製品を、日本の伝統的な技でつくったものも少なくありません。たとえば、異なる色や木目の木材をはめ込んで図柄を表現する木象嵌のスマホケース、秋田の曲げわっぱでつくられたランプシェード、寄木細工のタンブラーなど。刺し子のテーブルマットは和を感じさせる粋なインテリア小物です。

お酒を嗜む相手には

お酒を飲む方に贈るなら、アルコールもギフトの有力候補ですね。日本文化を伝えるお酒というと真っ先に「日本酒」を思い浮かべますが、Vol.3でお話ししたように日本でつくられたワインも歓迎されます。さらに、ウイスキーを日常的に飲まれる方には、日本のウイスキー、というチョイスを思い出してください。東南アジア諸国では、日本のウイスキーは本場スコットランドの銘柄以上のワールドクラスのブランドなのです。ブランド名が漢字で書かれているものは、特に喜ばれること請け合いです。

日々の暮らしを通して日本文化を知ってもらう

今回お伝えしたかったのは、棚やデスクに飾ってもらうようなギフトも素敵ですが、毎日使ってもらうようなギフトもぜひ一考してほしい、ということ。生活の中で使ってもらってこそ、日本の伝統工芸の技、文化の一端を知ってもらうことにつながります。日々の暮らしを通して日本をもっと好きになってもらえたら、贈るほうも、贈られるほうも、うれしさ倍増です!

高橋克典

高橋克典Katsunori Takahashi

1957年生まれ。シャルル・ジョルダン、カッシーナイクスシー、WMFジャパン コンシューマーグッズなど、海外企業の子会社や日本法人の社長を歴任。ヨーロッパを中心に世界各国とのビジネスを経験し、またフランス在住経験を持つ。現在は、企業のコンサルティングをしながら、講演や執筆活動にも力を入れている。著書に『海外VIP1000人を感動させた外資系企業社長の「おもてなし」術』『小さな会社のはじめてのブランドの教科書』(ダイヤモンド社)など。