ギフト選びのNG週から相手の好みをリサーチするコツまで、グローバルに活躍するワーキングパーソンに役立つ情報満載。 外資系の社長を歴任し、海外暮らしを経験してきた筆者が、世界のギフトにまつわるエピソードをご紹介します。
Vol.1 贈る前にちょっと待ってください! ギフトNG集【欧米編】
長い間ビジネスの世界に身を置いていると、たくさんの嬉しい思い出とともに、マズイ、と思うような失敗もいろいろとありました。これから1年間、毎月、私が体験し、また知人から聞いたギフトにまつわるエピソードをお届けします。ギフトの向こう側に、文化や慣習の違い、さらに宗教観などが見えてくると思います。
ビジネスパーソンにとってのギフトとは
贈り物をもらったら、誰でも嬉しくなります。また贈る側だって「相手がどんな反応を示してくれるだろう? 喜んでくれるかな?」という期待と少しだけ不安が入り混じった気持ちになり、ワクワクするものです。
それはもちろんビジネスシーンであっても同じです。ビジネスや政治も、結局は人と人が仲よくなり、信頼し合うことができれば上手くいくのですから。安倍首相も、和食好きのオバマ前大統領には山口県の「獺祭(だっさい)」という日本酒をプレゼントしましたし、ゴルフ場をいくつも所有しているトランプ大統領には就任直前にニューヨークを訪問した際、彼がお好みのゴルフクラブを贈ったそうです。
私たちビジネスパーソンも、出張で海外の取引先に赴くとき、大抵何か手土産を持参します。でも、ちょっと待ってください。世界の国々には「これを贈られても素直に喜べない」という品があります。それどころか、贈られた瞬間、顔がにわかに曇る......なんてことだってあるのです。
欧米では、相手との距離感を大切に
こうしたギフトにまつわる慣習は、長い間の生活習慣の違い、さらには宗教や信条に関わるものまでさまざまです。まずはヨーロッパのお話から。ご存知の通り、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなど複数の国で構成されており、一口にヨーロッパと言っても多様です。
例えばイギリス人は誇り高きアングロサクソン。自国のお茶、クッキー類、チョコレートなどは世界一と信じています。しかもラテン系の人たちと比べて一般的に食べ物に対して保守的です。ですから日本のチョコレートやクッキーなどを持参しても、内心「ふ、ふーん」と鼻で笑われるかもしれません。まして羊羹のように黒いお菓子は、あまり馴染みがないので要注意です。
ところで、日本ではお中元やお歳暮、ちょっとしたお礼の品などに、石けんやタオル、それにハンカチを選ぶことがありますよね。でも、フランス人、特に年配の人はあまり喜ばないのです。伝統的に石けんを他人からもらうと「えっ、私って汚れている?」と感じてしまう人がいるし、タオルは洗面所で使う非常に私的なものと認識しているためです。
フランスに限らず、仕事上の付き合い程度だったら「プライベートに入り込んで欲しくない」と考えるのが、個人主義が徹底しているヨーロッパ人の一般的な感覚です。プライベートライフは自分の好みですべて決めるので、恋人や連れ合いでもないのに、私室で使うものを贈られることに抵抗があるのです。これは服飾雑貨も同じ。男性にネクタイや女性にスカーフを贈るのも相当ハードルが高く、ビジネスシーンには向いていません。特に女性から男性へネクタイを贈ることは「あなたに首ったけ!」の含意がありますから、気をつけてください
同じヨーロッパでも、お国柄はさまざま
また、受け取り方にもお国柄があります。出張手土産の定番、小さなおまんじゅうセットやおせんべいをフランスやイタリア企業に持参すると、スタッフみなが寄ってきてバリバリ包みを開け、すぐに美味しそうに食べてくれます。一方、イギリスやドイツ企業となると、テーブルの脇に置いておいて、なかなか食べようとはしませんでした。味や食感に関して、慣れていないものにトライすることをためらうのですね(とはいえ、そういう場合も後で必ず召し上がっていましたからご安心を)。
では、ギフトにはどんなものを選ぶのがよいのでしょう? アイデアの一つとして、オフィスで使うものならきっと喜んでくれるだろうと考えます。欧米のビジネスパーソンは、自身のデスクや窓際に必ずと言っていいほど家族や大切な人の写真を飾りますから、フォトフレームはとてもよいチョイスのようです。しかしこれも贈る相手と打ち解けて、執務室やデスク周りでミーティングをするようになってからのほうがよいかもしれません。人それぞれ好みがありますから。
国籍ではなく、バックグラウンドを確かめて
ところで、ヨーロッパは国籍とは関係なくさまざまな民族、そして異なる宗教を持った人たちが暮らしているモザイクであるということを、私たち日本人はともすると忘れがちです。例えば、ドイツ国籍でありながら実はユダヤ人、フランス国籍を持ちながら敬虔なムスリム(イスラム教徒)、といった具合です。もちろん中東系や東洋系の人たちも多数います。ですから、贈り物をするときは、国籍や今住んでいる場所で判断するのではなく、できれば贈る相手のバックグランドを確かめてから選ぶことをおすすめします。
私もこんな経験があります。以前、フランス企業のトップにクリスマスプレゼントを贈ったら、苦笑いをされました。こちらに悪気がないことはわかっているので、「メルシー(ありがとう)」と言ってくれましたが、彼はユダヤ系フランス人だったので、イエス・キリスト降誕祭を心から祝うことはなかったのです。
食品やお酒もちょっとした配慮が必要
さて、アメリカはどうでしょうか? アメリカは世界で最も多様性に富んだ合衆国です。一般的にアメリカ人はオープンマインドで何でも喜んでくれます。でも、食品関係は要注意。アレルギーを持った人がとても多いからです。小麦やライ麦などに含まれるたんぱく質の一種グルテンに免疫が過剰反応を起こすアレルギー疾患、セリアック病に悩む人々が年々増えているそうです。一説によると、アメリカでは100人に1人がセリアック病と言われています。グルテンはパンやパスタに含まれていますから、アレルギーを持った人には絶対に差し上げられないものです。また、キリスト教の一派であるモルモン教では、アルコールやタバコをはじめ、コーヒーまでも禁止しています。こうした厳しい戒律のある宗教を持つ人にも配慮が必要です。
煎じ詰めれば、プライベートと仕事をきっちり分ける欧米の人たちには、よほど仲よくなるまではプライベートに関わるギフトは控えて、定番から始めてみてはいかがでしょうか? おせんべいなどオフィスで気軽につまめるスナック、文房具(和紙を使用したものや民芸調のもの)などは、気軽に贈れて、かつ気兼ねなく楽しんでもらえるでしょう。
贈り、贈られる、どちらも楽しいものです! 次回は、ギフト選びの要、「相手が好きなものをどうやって知るか?」についてお話を進めていきたいと思います。
高橋克典Katsunori Takahashi
1957年生まれ。シャルル・ジョルダン、カッシーナイクスシー、WMFジャパン コンシューマーグッズなど、海外企業の子会社や日本法人の社長を歴任。ヨーロッパを中心に世界各国とのビジネスを経験し、またフランス在住経験を持つ。現在は、企業のコンサルティングをしながら、講演や執筆活動にも力を入れている。著書に『海外VIP1000人を感動させた外資系企業社長の「おもてなし」術』『小さな会社のはじめてのブランドの教科書』(ダイヤモンド社)など。